「代表取締役」は会社法で定められている肩書のひとつで、株式会社での実質的な最高責任者を意味しています。ただし、代表取締役という役職が定められているのは、株式会社のみ。法人化して合同会社を設立する場合は、「代表社員」となります。

・取締役

会社法では、株式会社において業務執行に関する意思決定を行う役職者のことを「取締役」と定めています。取締役は会社の経営方針を定め、適切に業務が遂行されているかを監督するなど、企業にとって重要な業務を担います。

・代表取締役

取締役会や株主総会での議決を経て選任された、取締役の中で最も序列が高い人です。会社の代表である「代表取締役」となり、会社を代表する権限を持ちます。

代表取締役や取締役は、会社の中核を担う「会社役員」です。業務執行上の法的責任を有するため、それぞれの役職で持つ権限、選任や辞任の方法なども会社法で定められています。

・代表取締役の就任期間や権限

代表取締役および取締役の就任の期間は、2年間です。ただし、例外もあります。たとえば株式譲渡制限会社（非公開会社）の場合は、あらかじめ定款に任期を定めておくことで、代表取締役や取締役の任期を最長10年まで延長できます。

代表取締役の任に就くと、会社の業務を執行する「業務執行権」、会社の代表として行動する「代表権」などを持ち、会社代表として取引や契約締結などの業務を担います。しかしこれら全ての業務を代表取締役だけで担うのは難しいため、取締役と分担して遂行するのが一般的です。

多くの権限を持つ代表取締役ですが、単独で会社の意思を決定する権限はありません。ただし、取締役会から委任された事項に関することであれば、例外として単独で意思決定をしても問題はありません。

・代表取締役は1人とは限らない

会社法では、代表取締役の人数を1人に限定してはいません。そのため、代表取締役を2人以上選任することも可能です。たとえば、3人の取締役がいるが取締役会で代表取締役を選任しない株式会社の場合、3人全員が代表取締役になります。

あらかじめ定款で代表取締役の人数を定めることで上限を設けることができますが、定款で定めた内容を変更したい場合は、株主総会での決議が必要です。

企業トップの肩書きに使われる「社長」「代表取締役社長」「CEO」などの肩書は、「代表取締役」とどう違うのでしょうか。

・社長

代表取締役のような会社法で定められた正式な役職名ではなく、「会社の長」であることを示す慣習的な呼称です。代表取締役が複数選定できることに対して、基本的に社長は1企業に1人しかいません。法的な定めがないので、社長に与えられる権限や役割は、企業ごとに異なります。

・代表取締役社長

法的に役割を定められた「代表取締役」と、慣習的な呼称である「社長」を組み合わせた肩書です。法的責任を持つ代表取締役と、実質的な企業の代表者である社長、両方の役割を兼務している場合は「代表取締役社長」と称することが一般的です。

・CEO

「Chief Executive Officer」の略で、日本語では「最高経営責任者」を意味します。事業戦略や企業の業務執行を統括する企業の代表という役割を担うことが多いため、代表取締役や代表取締役社長と同じ意味合いで使われることも多くあります。

「代表取締役」「社長」「CEO」の中で、どの肩書の序列が高いかは一概には言えません。なぜなら、社長やCEOは会社法で定められた役職ではないので、どの程度の業務執行権限があるか、企業によって異なるからです。また、大企業では経営戦略を統括する立場の人が複数名存在することもあり、事業部門ごとにCEOが選任されるケースもあります。

ちなみにCEOに類する肩書として、「COO（Chief Operating Officer、最高執行責任者）」や「CFO（Chief Financial Officer、最高財務責任者）」という役職もあります。「COO」はミッションの実行に関する責任者、「CFO」は財務面から経営をサポートする責任者を意味します。

個人事業主が法人を設立して事業を移し替える（法人成りをする）場合、株式会社であれば取締役および代表取締役を選定するのが一般的です。こうした組織の基本的なルールや会社運営に欠かせない決め事をまとめておくのが「定款」です。

定款は「会社の憲法」とも呼ばれる書類で、株式会社の場合なら会社組織や運営にかかる事項など、基本的な情報に加え、代表取締役や取締役会についても記載するのが一般的です。定款は会社設立時に必要なので、組織運営に関わる取締役や監査役、役員、代表取締役などは、定款の作成に合わせて選定することになるでしょう。

作成した定款は、会社の本店所在地を管轄する法務局に所属する公証人の認証を受ける必要があります。

定款では「代表取締役は、取締役の中から1名定める」などのように、選定方法や人数などの原則ルールだけを決めておくこともできます。しかし前述したように、定款に記載した内容を変更する場合には、株主総会の決議が必要になるため、時間と手間がかかります。

会社設立後は、会社のさまざまな情報が登記簿に記載されて一般公開されます。その中には、代表取締役、取締役や監査役などの会社役員の氏名も含まれており、代表取締役に至っては現住所の記載も必須とされていました。

登記簿は誰もが閲覧できる公開情報なので、プライバシー対策の観点から2024年10月に商業登記規則が一部改正され、「代表取締役等住所非表示措置」を申し出れば、住所を非公開にできるようになっています。ただし、登記事項証明書などで代表者の住所を証明できなくなるため、融資審査や不動産取引などに影響する可能性があるなどの注意点もあることも理解しておきましょう。

参考：法務省「代表取締役等住所非表示措置について」

法人として事業を開始する際には、名刺の作成も必須です。企業トップの肩書をどのように表すかは社内ルールに則って自由に決めることができますが、一般的に使われる名称を、英語表記と合わせて紹介します。

• 代表取締役（Representative Director）
• 社長（President）
• CEO（CEO または Chief Executive Officer）

これらの肩書は、複数並べて記載することも可能です。

• 代表取締役社長（President and Representative Director）
• 社長兼CEO（President and CEO）

名刺の肩書について、法的な決まりはありません。そのため、肩書を記載しないという選択もできますが、名刺に肩書を記載しておくことで、自身の社内での立ち位置をスムーズに相手に伝えることができ、信用度を高められるというメリットがあるでしょう。ただし、名刺の肩書が対外的な契約などに影響を及ぼす可能性もあります。法的な決まりはありませんが、実態と異なる肩書は使用しないようにしましょう。

「代表取締役」と「社長」は混同しやすい肩書ですが、「代表取締役」は会社法に基づく正式な役職、「社長」は慣習的な呼称という違いがあります。また、近年目にすることの多い「CEO」という肩書には法的な定義はなく、運用も各企業により異なります。

法的な役職の違いを正しく理解し、法人設立や名刺作成の際など、適切な肩書を選択するようにしましょう。