環境への負荷が少ないスニーカーを取り扱うスタートアップであるオールバーズ(Allbirds)(*外部英語サイトへ移動します)が、このたび株式公開企業となりました。
米国サンフランシスコに本拠を置く同社は2021年11月3日の朝、IPO(新規株式公開)に成功。公開価格は当初12~14米ドルという予想でしたが、実際は1株15米ドルに設定され、その価格は公開日にさらに高騰(*外部英語サイトへ移動します)しました。3億300万米ドル近くを調達したオールバーズの時価総額は21.6億米ドルとなり、2020年の17億米ドル(*外部英語サイトへ移動します)をはるかに上回る結果に。これらの数字が示す通り、「サステナビリティに重点を置いている企業は株主価値を創出する収益性の高い企業でもある」と投資家は考えているようです。
オールバーズは5年前、当時は珍しかった、ウール素材を使った履き心地の良いスニーカーを発売。ミニマルなノームコア(*究極の普通)の美学をもとに作られたこの靴はシリコンバレーで人気に火が付き、今ではアメリカ全土で支持されています。同社は創業当初から素材の革新に焦点を当て、カニの殻、ユーカリの繊維、サトウキビなどの再生可能な天然素材を使用した製品を開発してきました。こうした努力が実り、競合他社とは一線を画す企業へと成長。「この業界では、プラスチックや合成繊維からサステナブルな天然素材への移行を目指す変革が起こっています」と、オールバーズの共同創業者兼共同CEOであるティム・ブラウン(Tim Brown)氏は言います。「当社は創業当初からサステナビリティ視点での研究開発に高いモチベーションがありました。こうした考えは、他社との重要な差別化要因になるため、今後も投資を続けていきます」
デューク大学のイノベーションおよびアントレプレナー・イニシアチブ(Innovation and Entrepreneurship Initiative)のエグゼクティブであるブラッド・ブラインガー(Brad Brinegar)氏は、オールバーズの株式市場参入は、サステナビリティを重視する製品開発の姿勢と相まって、まさに絶好なタイミングだったと指摘します。「オールバーズが作る履き心地の良いアイテムは、消費者のアスレジャー(*普段着として着る運動着)へのニーズに完全にマッチしています。また、気候変動の知識が消費者に浸透するにつれて、同社のサステナビリティに焦点を置く姿勢は、ますます消費者の共感を呼んでいます。さらにパンデミックによってこれらのトレンドに拍車がかかり、履き心地の良さを追求しつつ、地球の将来が懸念されるようになったことも同社を後押しする要因になっています」とブラインガー氏は話します。
オールバーズはベンチャーキャピタルから2億250万米ドルの資金調達に成功し、最近ではシリーズEラウンドでフランクリン・テンプルトン・インベストメンツ(Franklin Templeton Investments)から1億米ドルを調達しました。この資金により同社はアパレル分野に進出し、実店舗の店舗数を拡大しています。同社は現在、8カ国に35の小売店舗を構えています。「私たちは早い段階から海外進出を行い、上海、グラスゴー、オークランド、ニューヨークに出店しました。こうした都市には環境保護に大きな関心を持っている若いお客様がいると考えたからです」とブラウン氏は話します。
オールバーズは急速に成長していますが、まだ収益を生み出すには至っていません。2020年の純収益は2億1,900万米ドルだったものの、最終損益は2,590万米ドルの赤字でした。投資目論見書(*外部英語サイトへ移動します)には「当面の間は赤字を出す状態が続く」との記載があります。オールバーズのこの経営状況は、ワービー・パーカー(Warby Parker)やレント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)など、最近株式公開を果たした成長著しい他のD2C(Direct-to-Consumer)スタートアップ企業と似ています。エモリー大学ゴイズエタ経営大学院マーケティング学部のダニエル・マッカーシー(Daniel McCarthy)助教授は、「企業が最終的に収益を上げるかどうか、株式公開前に投資家が予測することは、一筋縄ではいかないのが現実です」と言います。「IPOに着手する段階ではこのようなD2C企業のほとんどが損失を出しています。その根本となるユニット・エコノミクスに大きなばらつきがあることで、予測は困難を極めるのです」
マッカーシー助教授は、オールバーズは顧客獲得コストやSECファイリング(*外部英語サイトへ移動します)でのリピート顧客に関するデータなど、ワービー・パーカー(*外部英語サイトへ移動します)と比べて多くの財務詳細を記載していなかったと指摘します。「このデータを開示する義務はありませんが、これらの数値が良さそうだと投資家が判断すれば、投資の可能性がはるかに高くなります」とマッカーシー助教授は助言します。
そのような背景がありながらも、オールバーズの上場初日の取引結果を見ると、投資家はこの企業がいずれ黒字化できると信じているようです。ブラインガー氏は、オールバーズの粗利率がSketchersやNikeと遜色ないことに注目しています。「アパレル業界全体で見ると、この数字は相当良いものです。彼らが主張している大量生産によるスケールメリットが実現すれば、黒字化への道筋が見えてくると思います」と同氏は言います。
よりサステナブルな素材を開発し、環境への負荷が少ないサプライチェーンを構築するという、どちらもコストがかかる手段で気候変動に取り組むことを宣言しているオールバーズは、同時に黒字化を強く望んで企業活動しています。同社は「Bコープ」の認証を取得した企業であり、社会的意義に焦点を当て、環境保全の目標達成のために進捗状況を公開することが法的に義務づけられています。「投資家は、社会のためになることに取り組みながら、基本的に経済状態が健全で、実際に成長の見通しが立っている企業に投資をします」とブラインガー氏は述べています。
マッカーシー助教授によれば、投資家の目線からオールバーズを見ると、サステナビリティに力を入れる方針には長所も短所もはらんでいるとのことです。また、この方針が黒字化の達成を困難にしていると指摘します。「環境に配慮するあまり、投資家から同社が収益性を追求した価値創造に100%集中していないと思われ、この企業姿勢が“短所”として映る可能性があります」と述べています。しかし一方で、世界が気候災害に取り組む中、消費者は環境にプラスの影響を与える取り組みを真摯に進めているブランドを模索しています。「消費者がサステナビリティに関心を持っていることは、投資家に新たな投資対象の源泉を示唆していることになります」とマッカーシー助教授は補足します。
ブラウン氏によると、「ビジネスの土台を強固にすることと公益の両立は可能である」という考え方に賛同する投資家がますます増えているとのこと。実際オールバーズのIPOは、CO2排出を削減しつつ経済成長を維持する方法について世界のリーダーたちが話し合った「第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)」と同時期に行われました。ブラウン氏は言います。「収益性とサステナビリティは必ずしも二律背反の関係ではないと思っています。私たちは優れたビジネスを創出し、素晴らしい製品を作っています。消費者はますますサステナビリティを中心に据えた行動に期待するようになります。私たちの考えやビジネスのあり方が特別なものではないということを、これから証明していきたいと考えています」
この記事は、Fast CompanyのElizabeth Segranが執筆し(初出日:2021年11月3日)、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。