米国サウスカロライナ州マウントプレザントの国道17号線を車で通ると、「Opie(オピー)」と看板に書かれた建物が目に入ってきます。「ファーストフード店かな?」と思いきや、車を停めて店内の様子をうかがうと……食べ物がたくさん置いてあるものの、陳列されているのはオレンジジュース、新鮮な肉、有機野菜などで、ハンバーガーやポテトフライ、ミルクシェイクは見当たりません。
「ようこそ、Opie Drive-Thru Grocery(オピー・ドライブスルー・グロッサリー)へ」
ここは、いつでも開いているファーストフード店の利便性とスピード、スーパーマーケットの幅広い品揃えーーそれらの融合を目指した、ピックアップ(商品受け取り)サービス専門の食料品店なのです。
2021年10月5日に正式にオープンした24時間営業のこの店は、「ダークストア」と呼ばれる業態で、買い物客は注文した商品を従業員が陳列棚から手早く集める間、車内で待つというスタイルの店舗です。車が店の駐車場に入ってくると従業員がやって来て、約280平方メートルの広さを持つ特注の施設から注文した商品を取ってきて渡してくれます。
サウスカロライナ州チャールストンの郊外に位置するこの店には、商品受け取り用の窓口や注文カウンターがありません。その代わり、買い物客はスマートフォンアプリを使用して先に注文を済ませておくか、店の外にある駐車場で注文します。また、ファーストフードのドライブスルーのように、従業員に口頭で注文を伝えることも可能です。支払いは電子決済のみです。
「私たちの仕事は“駅”と近いものなのかもしれません。目的地を目指す途中で少しの時間立ち寄る場所なのです」と、店長のスコット・トーマス(Scott Thomas)氏は言います。同氏はファーストフードチェーン「Chick-fil-A(チックフィレイ )」で十数カ所以上の店舗出店を経験した後、Opieに入社しました。
数分で注文が完了
食料品小売業では、買い物客が車に乗ったまま商品を受け取れるサービスの拡充に力を注ぐことで、利便性の向上を目指しています。こうした近年の動向から、ピックアップサービスが食料品店の電子商取引の重要な牽引役として浮上してきています。
2021年、Giant Eagle(ジャイアントイーグル)、Kroger(クローガー)、Whole Foods(ホールフーズ)など一部の小売業者が、パンデミックで加速した需要急増に対応しようと、一部の店舗をピックアップサービス専用の店舗に転換しました。Albertsons(アルバートソンズ)などの食料品店では、非接触型のピックアップロッカーを試験運用しています。Amazon(アマゾン)やWalmart(ウォルマート)は、過去にピックアップサービス専用店舗を試験的に設置したことがあります。
Opieが他と異なるのは、スピード感あるサービスです。注文を受けて数分後には商品が揃います。Opie共同創業者のタイラー・ソーンズ(Tyler Sones)氏によると、従業員は少量の注文であればわずか90秒、30品目以上の大量注文でも約6分で対応できると言います。
「食料品や生活雑貨は、必要に迫られる場合が多いです。例えば、牛乳を切らしてしまった、リモコンの電池がなくなってしまった、というようなことです」とソーンズ氏は述べます。「まさに、こうしたところからアイデアが膨らみ、ピースをつなぎ合わせながら事業を計画していきました」
写真提供:Opie Grocery Stations
ソーンズ氏によると、お客様の大半は来店前に注文しますが、車で来てその場で注文するお客様も30%ほどいるとのこと。“その場”で注文をするお客様は、同社の想定より4〜5品以上多く購入する傾向が見られ、中でも酒類がよく売れているそうです。
「そこには必ずサブマーケットがあります。来店間際に奥様から『明日の朝食用の卵を買って来て』と言われるケースや、来店してから『ビール6本入りのパックもお願いします』と、予定していた購入品目より多く注文されるお客様がいらっしゃいます」
Opieでは、1シフトあたり4〜5人のチーム体制で、注文対応や商品陳列などの作業をこなしています。これまでのところ、最も忙しい時間帯は午後4時から8時の間だということです。
ソーンズ氏は、乳製品、焼き菓子、新鮮な肉、パックされた総菜など、約5,000品目が店に在庫管理されていると言います。在庫の約40%は自然食品またはオーガニック食品です。そのほか、ラップサンドやサラダ、地元の焙煎業者から仕入れたコーヒー、飲料各種が揃っており、将来的にはプライベートブランド商品も提供する可能性があるそうです。
店舗をオープンする際、Opieは主な仕入先であるUnited Natural Foods, Inc.(ユナイテッド・ナチュラル・フーズ)やMerchants Distributors(マーチャンツ・ディストリビューターズ)の協力を仰ぎ、最初に仕入れる商品を決定しました。オープン後、ソーンズ氏は売上の推移を数週間にわたって見ていく中で、牛乳が予測以上に売れていることや、パンケーキとシロップ、ベーコンと卵など、相性の良い商品の組み合わせを求めて店舗に立ち寄る傾向があることを把握しました。「今後は、消費者の購買傾向に合わせた、より的確な品揃えを展開していく予定です」とソーンズ氏は述べました。
写真提供:Opie Grocery Stations
競争力のある価格と「喜びにあふれる」サービス
ソーンズ氏は、2019年にOpieを創業するにあたり「郊外地区に出店するなら宅配よりも商品受け取りサービスのほうが適している」と結論づけたことを明かしました。
「人々が広い範囲に分散している場合、宅配は非常に高くつきます。『お客様が車移動しているのならドライブスルーのサービスを提供しよう』と創業者たちの間で判断しました。そして、ダークストアモデルを採用することで、非常にスピーディーに商品を集められるようになりました」
Opieは、限られた品揃えとはいえ、競合相手であるウォルマート、Target(ターゲット)、Publix(パブリックス)などの従来の食品小売店に対して、価格競争力を維持しようとしています。さらにOpieは、手数料の請求や最低注文数の設定は行っていません。そうではなく、従来の食品小売店と異なる運営によって実現したコスト削減に頼って、同社の事業モデルを機能させています。
「お客様はコンビニエンスストアと同じくらいの価格だろうと思って当店を利用、あるいは来店しますが、従来の小売店と価格が変わらないので、皆さん驚かれます」とソーンズ氏は述べます。
写真提供:Opie Grocery Stations
Opieという名は、1960年代のテレビ番組『メイベリー110番』に登場する子どもの名前から付けられました。Opieでは、お客様の店での滞在時間をできるだけ短くすることを重視していますが、短時間でも来店中の体験には細心の注意を払っています。従業員はお揃いのシャツと帽子を身につけ、BGMで流れているのは1950年代の音楽です。
「来店中は、できるだけ楽しく、そして喜びにあふれる時間を過ごしていただけるように心がけています」と店長のトーマス氏は言います。
Opieは、チャールストン地区での1号店のオープンを決定する前、ソルトレークシティ近郊、テキサス州、ノースカロライナ州など複数の地区を検討していました。同社は、サウスカロライナ州サマービル近郊で2号店のオープンを予定しており、同州内でさらに2店舗をオープンする計画です。
Opieはワイオミング州ジャクソンを拠点とする個人投資家から支援を受けていますし、複数の自治体や投資家からも関心が寄せられています。ソーンズ氏は「食料品の販売方法のアプローチを改善するための提案も進んで取り入れていきます」と述べました。
「この先の展望や計画は、私たちが目指すものによって大きく変わるでしょう。フランチャイズ展開やパートナー探し、あるいは大量出店を目指してより規模の大きな企業と提携するのか……。越えなくてはいけない大きな山々は、まだまだこの先に待ち構えています」
この記事は、Grocery DiveのSam Silversteinが執筆し(初出日:2021年10月27日)、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jp にお願いいたします。