多くの起業家たちは、自社ブランドの認知度を高め、事業をグローバルに展開していくことを目指しています。しかし、2020年3月に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって以来、このような拡大計画は、当然のごとく世界各地で中断しています。
企業が新しい勤務形態に慣れ、経済が再開し、制限が緩和されるにつれて、英国におけるスタートアップの創業者たちは、パンデミック以前に描いていた事業の拡大計画を再び考え始めているようです。
私は、アプリやテクノロジー製品を開発するStudio Grapheneの創業者兼ディレクターです。当社Studio Grapheneは、この困難な時期でも従業員数を3倍に増やすことができました。当初は野心的な目標と言われましたが、現在では拠点となる英国以外に、インド、ポルトガル、スイスの4カ所にスタジオを構え、総勢100人もの有能な人材を配置しています。
ここでは、私自身がその過程で学んだ重要な教訓をご紹介します。
採用面接で重要なのは、お互いをよく知り、実務面を考慮すること
私たちは採用活動を慎重に行っています。例えば、候補者と入社後に一緒に仕事をする可能性のあるチームメンバーが、より個人的なつながりを持てるように努めています。パンデミック以前は、当社の企業文化に合うかどうかの評価面接を1〜2回程度行えばよかったのですが、今ではもっと多くの面接を行い、応募者と当社の従業員との交流をより深められるように配慮しています。
ここに至るまで、特に初期の段階では、採用における失敗も経験しました。この18カ月の大半をビデオ通話で過ごした方であれば、相手と有意義な関係を築くことの難しさを痛感しているはずです。顔の表情や声の調子はスクリーン越しでもつかむことができますが、雰囲気や性格を感じ取ることは難しくなります。そのような状況の中で、少しずつ私たちの目と判断力は磨かれ、より良い採用を行うための厳密な採用フローを確立しました。
重要なことは、採用予定者と私たちがお互いのことをよく知ってもらう機会を提供し合うことです。職務をきちんと遂行できるかどうかの判断だけではなく、職場環境や文化の構築に貢献できる人材を採用することができたと確信を持って言えるかどうか、それが重要なのです。
職場文化の拡張
新入社員を迎え入れ、新しい職務にスムーズに定着できるように研修や支援を行うのは決して容易ではありません。リモート環境であれば、さらに困難になります。どんな企業でも同じだと思いますが、私たちは分散して働く従業員の社会的な交流について、有意義な関係を築けるようなコミュニケーションを模索し、新しいアイデアを実践する必要がありました。
定期的に顔を合わせて交流する機会がなかったので、チームメンバーが直面している問題や個々の要望およびニーズに対する感度が低下していました。これを克服するために、私たちは複数のスタジオでバーチャルなチームイベントや交流の場を設けました。この試みはある程度成功しましたが、課題も残りました。その課題とは、日常的にコミュニケーションを取っているメンバーとの組織活動における楽しさと、バックグラウンドが異なる従業員同士が自分の考えや経験を共有できる新たな機会創出との、微妙なバランスを確立することでした。事前に計画され、制約の多いZoomでのミーティングとは違い、交流イベントはより自発的なアクティビティのため、課題が浮き彫りになったと同時に、より深いレベルでチームメンバーとつながることができたのです。
マネジメントスタイルを順応させることが重要
デジタルファーストの世界では、燃え尽き症候群に陥るのは非常に一般的なことです。管理職やビジネスリーダーたちは、背後で何が起こっているのか、従業員がどんな問題に直面しているのか、その多くを把握することができません。ウェルビーイングの重要性を明確に伝えることや、従業員に生産性よりも心身の健康を優先するように働きかけることは、不可欠な事項として急務になっています。
行動によって模範を示すことが重要になりました。当社では勤務時間外にメールを送ることは、やむを得ない場合を除いて行われません。時差のために4つのスタジオは異なるタイムスケジュールで働いていますが、仕事はそれぞれの「就業時間」外には実行しないという相互理解があります。また、仕事を早く終わらせるために、過度または不必要な残業を行わないように伝えています。このことは、従業員同士の尊重を強めながら、自分に合ったワークライフバランスを確立するのに役立っています。
もう少し一般的な話をすると、ビジネスリーダーはスタッフの様子を把握するために話す時間を積極的に作る必要があります。リモート環境下では「オフィスで偶然すれ違う」ことはないため、従業員が「手伝ってほしい」「サポートしてほしい」と思ったときや、ちょっとした電話の際やオンラインミーティングでの休憩中などに、リーダーは「会話のドアがいつでも開いている」ということを示さなければなりません。
正しいテクノロジーを採用する
テクノロジーの重要性を抜きにして、仕事の未来を議論することはできません。ここStudio Grapheneでは量より質を優先し、連絡手段の合理化を目指しています。例えば、社内コミュニケーションはすべてMicrosoft Teamsを介して行っているチームもあれば、Slackが最良の選択肢として採用しているチームもあります。私たちが学んだ重要な教訓の1つは、使うチャネルが多すぎると生産性が上がるどころか気が散ってしまい、必須の連絡手段が人によって異なるという事態が起こってしまうということです。
リモート環境下では、プロセスを実際にどう変更すればより快適な業務環境にできるかを常に評価することが重要です。また、同僚と離れて働くことで社員がどのような問題に直面するかを慎重に検討し、適切にサポートすることも重要です。
企業が事業規模の拡大計画について検討するうえで、この先数カ月がターニングポイントになることは間違いありません。さらに多くの野心的なスタートアップが新しい場所で事業を展開するのを私たちは楽しみにしています。
リタム・ガンジー(Ritam Gandhi):ロンドンを拠点とするStudio Graphene(*外部英語サイトへ移動します)の創業者兼ディレクター。アプリ、ウェブサイト、AR、IoTなどのテクノロジー製品を一から開発する専門企業。同社は2014年の設立以来、100を超えるプロジェクトを遂行し、新しい起業家や大手企業の製品開発チームなどと連携している。
この記事は、UKTNのRitam Gandhiが執筆し(初出日:2021年10月4日)、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。