シンガポール政府観光局(STB: Singapore Tourism Board)は、2021年9月27日開催のイベント「Demo Day」で、STB主催のアクセラレータプログラムへの参加企業第4弾として9社のテックスタートアップを発表しました。
今回発表されたスタートアップには地元企業やグローバル企業が名を連ねています。これらの企業は、シンガポールの旅行業界や観光業界の企業と協力して、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより深刻な打撃を受けたビジネスを復活できるよう支援していきます。
今回発表された企業は以下の通りです。
Gnowbe(米国)
Gnowbeは、ウェブでもアプリでも利用できる、デバイスに依存しないマイクロオーサリングおよびマイクロラーニングのプラットフォームを開発しています。従業員がこれらのコンテンツを利用することにより、エンゲージメントやパフォーマンス向上、学習の促進を目指しています。また、同社はFraser Hospitalityと提携し、ホテルやホスピタリティビジネスを運営する企業を対象に、デジタルトレーニング・プラットフォームを提供しています。
LEDR(米国)
LEDRは、組織間で利用可能な最新のデジタル手法を構築しています。これにより企業は分析など複数の組織にまたがって共同作業をする場合に、データの一元管理や交換をすることなく、知識資産を完全にコントロールできます。その結果、企業は意思決定のためのインサイトを生成できるほか、LEDRのコンポーネントを相互運用することで、組織はより多くのカスタムアプリケーションを構築するための拡張可能なフレームワークを確立することができます。LEDRはSATSと提携して、データ共有とコラボレーションを促進するディープテクノロジーシステムを開発しています。
Ulisse(イタリア)
Ulisseは、画像処理やレーダーの技術を独自に組み合わせることで人間の行動を理解し、実用的なインサイトを生成し、すべての物理空間をインテリジェントな場所にする、セルフサービスのIoT専用プラットフォームです。シンガポールの旅行業界や観光業界を支援するために、同社はOne Faber Groupと提携し、センサーを通じて行動データ分析を行っています。
Quincus(シンガポール)
Quincusは、エンド・ツー・エンドの配送網の可視化、経路決定、容量最適化ソリューションを提供する世界的な物流テクノロジー企業です。リアルタイムデータやデータ分析を利用することで、サプライチェーンに関わるすべての関係者が共通のエコシステムで意思決定を行うことが可能になります。また、機械学習で最適化されたオペレーションにより、ネットワーク全体にはびこる非効率性を減らします。同社はシンガポールの旅行業界や観光業界をサポートするイニシアチブにおいて、ホテル向けのサプライチェーン最適化ソリューションでPontiac Land Groupと提携しています。
Xctuality(シンガポール)
Xctualityは、ライブストリーミング、360度のインタラクティブゲームプレイ、VR、収益化機能、それらが1つになったサービスの実現を目指しています。この一連のプロセスやその他の革新的な技術開発は、Xctualityが次世代のソーシャルネットワーキング体験として構想している「Virtual City」の基盤となるものです。同社はシンガポールにおけるインタラクティブなオンラインおよびオフライン体験を実現させるため、シンガポール国家遺産局(National Heritage Board)と提携しています。
Kotozna(日本)
Kotoznaは、ホテル業界向けに開発された、高レベルの多言語翻訳を備えたSaaS(Software as a Service)のコンシェルジュ・ソリューションです。このサービスを利用することで、あらゆるモバイルデバイスからテキストや音声、ビデオを介して、ホテルのスタッフと宿泊者がコミュニケーションを図ることができます。同社はマリーナベイサンズと提携しており、インスタントビデオに言語翻訳が内蔵されたサービスが提供されています。
This is Synthesis(シンガポール)
This is Synthesisは、旅行者の行動様式や嗜好の変化をデータ分析するアルゴリズムプラットフォーム「Shift」を開発しています。同社はシンガポール・チャンギ空港で航空関連事業を行うSATSと協力し、人工知能(AI)を活用して消費者の行動パターンからトレンドスポッティングのプロセスを構築し、製品開発を推進しています。
NextOrbit (インド)
NextOrbitは、需要、価格設定、在庫バランスの予測をサポートするNextOrbit SaaSプラットフォームを開発し、2段階のAIを活用して重要な意思決定を自動化します。また、Changi Travel Servicesと協力して、eコマースを管理するためのAIによる予測サービスを提供しています。
Skyfii (オーストラリア)
Skyfiiは、消費者行動データの分析レポートから、デジタルマーケティング・コンサルティング、訪問者の人数のカウント、AIカメラ、IoTセンサーなどの一連のサービスを提供しています。また、シンガポール国家遺産局と協力して、コンテンツの充実とより良いサービスの開発に向け、訪問者の分析を行っています。
シンガポールに再び観光客を
世界的に、新型コロナウイルスの拡散を防ぐための対策として多くの国が入国制限とロックダウン措置を行っているため、旅行業界や観光業界はパンデミックの影響が最も色濃く出ている業界と言えます。
STBの発表(*外部英語サイトへ移動します)によると、シンガポールへの訪問者数と観光収入は、どちらも2020年に減少しているとのことです。
発表では次のように説明されています。「訪問外客数(VA: visitor arrivals)は2020年には85.7%減少して270万人となりました(そのほとんどが2020年1月と2月の数字)。また、観光収入(TR: tourism receipts)は78.4%減少し、2020年第3四半期までの総額は44億シンガポールドルとなっています」
パンデミック期間中、旅行業界や観光業界の各企業も新型コロナウイルスと闘うための取り組みに参加しました。例えば、ホテルは政府の検疫施設、スワブ隔離施設、外出禁止措置用施設(SDF: Stay-Home Notice Dedicated Facility)など、さまざまな目的で客室を提供しています。
STBの最高技術責任者代理であるPoh Chi Chuan氏は、業界が直面している課題について次のように説明しています。「観光業界を取り巻く環境はますます複雑になっています。業界のステークホルダーたちは、次々に起こるテクノロジーのイノベーション、目まぐるしく変化する旅行者のニーズと高い期待に直面しています。特にシンガポールでは、人的資源の確保が難しく、こうした課題がさらに深刻になっています」
この記事は、e27のAnisa Menurが執筆し(初出日:2021年9月21日)、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。