農業に従事していない人にとっては、この業界が新しい技術やイノベーションを取り入れるようになったのは、ごく最近のことだと思われるかもしれません。しかし実は何世代にもわたって行われているのです、とウィルソン・アクトン(Wilson Acton)氏は話します。「農家の規模が大きくなるにつれて、小さい利幅で農業経営を乗り切る必要性に迫られ、農家は急速に技術を取り入れなければなりませんでした」と、アクトン氏はコリジョンズYYC(CollisionsYYC)でのインタビューで、司会者のタイラー・チゾム(Tyler Chisholm)氏に述べています。
アグリテックのスタートアップであるヴァージ(*外部英語サイトへ移動します Verge)の最高商務責任者であり、データサービス会社ウィップコード(*外部英語サイトへ移動します Whipcord)のエグゼクティブ・バイス・プレジデント、総務・法務担当責任者でもあるアクトン氏は、ほかの業界もカナダ西部の農業から多くを学べると話します。というのも、多くの企業はすでに、センサーを通じてウェブ上につながれている機械から流し込まれた膨大なデータを管理しているからです。「最近のトラクターに乗ると、約6台分のiPadに相当するテクノロジーによりさまざまな側面がコントロールされているのを目にするでしょう。古き良きアナログなトラクターというよりは、まるで宇宙船に乗っているみたいですよ」とアクトン氏。カナダ西部で変革を推進しているイノベーションに関して言えば、農業は大幅に進化しているとアクトン氏は考えています。
アグリテックが農業に革命をもたらす
テクノロジー部門の追跡プラットフォーム「トラクション」(*外部英語サイトへ移動します Tracxn)によると、カナダには、水や栄養素の供給から設備共有プラットフォーム、農作物データ収集や分析の提供に至るまで、200以上のアグリテックのスタートアップがあります。この分野では比較的新しい企業であるヴァージは1年ほど前に市場に参入し、農業経営を最適化するためにデータと人工知能を使った精密農業技術を構築しています。精密農業とは、農作物を効率良く栽培するために、GPSやドローン、センサー、土壌サンプリングなどの技術を使う農業の方法のこと。これにより農業従事者は、リモートセンサーおよびリアルタイムデータを使い、必要なタイミングと場所に絞って、種、肥料、水、栄養素を散布できます。精密農業は注目すべきトレンドだとよく言われるのは、エーカー当たりの利益が最も大きく、無駄も省けるためです。ヴァージは、農業用に2つの商品を用意しています。
●ファースト・パス(First Pass):現場での作業を効率化するソフトウェア
●ローンチ・パッド(Launch Pad):機械の動きを最適化する、ウェブベースの地理空間アプリケーション
どちらの製品も、栽培者が生産性と利益を上げつつ、土壌劣化や設備の消耗を抑えます。同社はまた、すでに自律型農業機械に向けて準備している数少ない企業でもあります。ヴァージにとってとりわけ有益だったリソースは何かと尋ねたところ、アクトン氏は、カナダ西部に位置するアルバータ州のビジネスコミュニティの寛大さと協力的な気質を挙げました。「一番驚きだった出来事は、誰もがオープンで協力に前向きだったことです」とアクトン氏は話します。テクノロジー業界の起業家仲間が人を紹介してくれたり、アイデアを話し合ったり、フィードバックをくれたりしました。「これは本当に心強かったし、今でもそれは変わりません。だからこそ長続きすると思います。そもそもアルバータ州とカナダ西部はこうやって作られました。誰もが隣人に喜んで手を貸したのです。『私対あなた』ではなく『みんなで一緒に』なんです」
フィールド・オブ・アグテック・ドリームス
アクトン氏は、農業従事者のオープンな姿勢やカナダの厳しい経済状況のおかげで、カナダはアグリテック導入において世界のリーダーになれたと考えています。「利益が出て誰もが稼げているとき、新しいテクノロジーをいくつも導入しようなどと人は思わないものです。厳しい状況で、やっていけるかも定かではないときこそ、人は調整し始めます」。農業はカナダ西部の基盤として、さらに強力で柔軟性の高い経済に貢献することができます。アクトン氏は、これこそがカナダの多様性戦略の一環であるべきだと考えています。農業は長い間、石油やガスなど“派手で魅力的な業界”や、その他の産業の陰に隠れて苦労してきました。しかしこれらの業界の勢いが失われる中、人々は農業に目を向けるようになってきた、とアクトン氏は話します。
「農業の未来が明るいことを示す先行指標は何か?」という問いに対しては、「雇用創出を上げてもっと多くの企業にアルバータ州に来てほしい」「地元からのスタートアップも増えてほしい」と話しました。実際カナダの拠点としてアルバータ州に目を向けている企業が増えています。例えば大手化学メーカーのBASFは2019年、新しいカナダ農業事業本部をカルガリーに移転すると発表しました(*外部英語サイトへ移動します)。カルガリーではすでに、シンジェンタ・カナダ(Syngenta Canada Inc.)や、ダウ・デュポンの農業部門だったコルテバ・アグリサイエンス(Corteva Agriscience)など、ほかの世界的な大手化学企業や大手農業企業も拠点を構えています。アクトン氏は、アルバータ州に来て長期的な投資をしている企業は、この地域での経済的成長や人材維持の鍵を握っていると考えています。「ここで立ち上げをする企業が行う新規事業の指標、そしてここに留まる新卒者を取り巻く指標を認識することが大切です」「この地に留まる新卒者にしてみたら、成功までにまだかなり長い滑走路があることはわかっていると思います。だからこそ、こうした指標は将来的な繁栄を知るためのものですから、目を向けるべき重要な事項だと私は思っています」
この記事は、Digital Journal / DX Journalに掲載され(初出日:2020年9月9日)、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。