人生において重要な転機となるようなチャンスが、ほかの人よりも頻繁に巡ってくるように見える人と、そうでない人はどこが違うのか。
その秘密を解き明かし、幸運なサプライズの頻度を増やし、それをいい結果につなげるフレームワークをまとめた本『セレンディピティ: 点をつなぐ力』がついに刊行された。
経済学分野で世界トップクラスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で博士号を取得し、起業家としても活躍する著者が書いた同書から、成功者に共通する世界の見方について、抜粋・編集してお届けする。
世界を捉える「枠組み」を意識しよう
観察力や注意力を高めると、世界の見え方、日々の経験ががらりと変わることもある。
世界をどう見て、どう理解するか、つまり世界をどのような「枠組み(フレーム)」でとらえるかは、いくつもの点を見つけ、結びつける能力を決定づける重要な要素だ。
重要な意味を持つかもしれないセレンディピティのトリガーへの感度を高め、その意味を理解できるよう備えることが必要だ。備えがなければ、珍しい出合いをさっさと切り捨て、セレンディピティを見逃しがちだ。
感度が低く、重要な意味を持つイレギュラーな出来事やアイデアに気づく心の準備ができていなければ、セレンディピティのチャンスを逃すだけではない。身のまわりの世界に対する認識そのものが後ろ向きになっていく。
あなたにとって世界は障害でいっぱいだろうか。それとも機会にあふれているだろうか。さまざまな制約があることを、物事がうまくいかない口実に使っていないだろうか。
どれほど困難な状況にあっても、人生に喜び、興奮、成功をもたらす可能性を秘めたセレンディピティの機会に絶えず注意を払っているだろうか。
私たちの研究では、ロンドンのウェーターやヨーロッパの画家、アメリカのフォーチュン500企業のCEOにまで同じようなパターンが確認されている。
自分たちに足りないリソースにばかり目を向けるのをやめ、個人の能力を引き出し、尊厳を感じさせるように努めれば、これまでただ援助を求めるだけだった人や予算ばかり気にしていた従業員が発奮し、自ら幸運をつくり出すようになるかもしれない。
リフレーミング(枠組みの転換)によって、私たちは実現可能な出来事や状況を思い浮かべることができるようになる。そして自分にはそれに向けて行動する力がある、トリガーを発見して点と点をつなぐ力があると考えるようになる。
それがセレンディピティを生み出すのに役立つのだ。
ここでカギを握るのは、思考や行動の変化だ。チャンスがはっきりと姿を現してくれるのをただ待つのをやめ、自分の心をオープンにして、既存のテンプレートや枠組みから解き放てば、機会は身のまわりにあふれていることに気づくはずだ。
危機と見るか、機会と見るか
構造や制約を当たり前のものとして受け入れるのをやめたとき、私たちは世界をそれまでとはまったく違う目で見るようになる。ほかの人々には断崖しか見えないところに、橋が見えてくる。
どうすれば日々の生活のなかで、それを実践できるようになるだろう。
そのプロセスは通常、行動をわずかに変えるところから始まる。たとえば、あらゆる状況を問題としてではなく、学習の機会としてとらえるといったことだ。
私を含めてたいていの人はこれまでの人生で、発生当時は危機だと思ったが、それが今の自分の支柱になっているという状況を経験したことがあるだろう。その状況を否定的な足かせととらえるか、それをテコに何ができるかという可能性に注目するか、試されていたのだ。
例えば自動車事故に遭ったとき、単に不運な出来事ととらえれば、それだけで終わってしまう。単なる不運な出来事だ。自分が判断を誤ったと考えれば、それは永遠に判断ミスのままだ。
私は今でも、自分にとって人生最悪の判断をしたときのことをはっきりと覚えている。仲間の反対を押し切って、共同創設者となった組織への追加出資を受け入れたのだ。
当時、私の理性はゴーサインを出していた。組織は財政的にも戦略的にも追い詰められており、書類上は出資を受け入れるしか存続の道はないように思えた。一方で私の直感は、思いとどまれと叫んでいた。
追加出資を受けた失敗から学んだこと
出資当初はうまくいったが、結局、投資家と共同創設者兼経営陣の思惑が一致していなかったことが明らかになり、こじれた末に投資家とはたもとを分かつことになった。
追加出資など初めからうまくいかないと思っていた仲間の共同創設者たちには、不要な苦労をかけることになった。
その後しばらく、私は自らの判断ミスにとらわれていた。モヤモヤした気持ちと折り合いがつけられず、この件について仲間と話し合うこともできなかった。
今でもあの判断を肯定はできないし、もう一度やり直せるとしたら違う判断をするだろう(後知恵バイアスを抜きにしても)。
「数字上の損得ではなく、正しいと思ったことをする」という自分がいちばん大切にしている信条を、必ずしも実践できていないことを痛感させられた経験だった。
当時は私自身と組織の存在を揺るがすような事態だと思ったが、最終的にはすばらしい学習の機会となった。同じような判断を迫られた人の気持ちがよくわかるようになったし、白黒はっきりした判断などないことも知った。世界をそれまでと違う「枠組み」で見られるようになった。
今では危機に直面すると、あのときのことを思い出し、できるかぎり情報を集めたうえで最後は「情報に基づく直感」を信じるようにしている。
それによって当初はうまくいくと思えなくても、いずれどうにかなるという安心感が出てくる。また自分の判断に何が影響を与えているかが理解できるし、自分の不安や願望をはっきりわかっていないと他人に影響されやすくなることも自覚できる。
『セレンディピティ 点をつなぐ力』紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら
この記事は、東洋経済新報社『東洋経済オンライン/執筆:クリスチャン・ブッシュ』(初出日:2022年2月25日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。