いま、オフィススペースの需要が急落しています。その一方で、セルフストレージ(個人向けのレンタル収納スペース)の需要は増加の一途をたどっています。このようなトレンドの中、空室となったオフィススペースをセルフストレージとして活用する事業を運営する不動産スタートアップがあります。
パンデミック中に創業したStuf(*外部英語サイトへ移動します)は、新しいタイプのセルフストレージ・プロバイダーです。同社は郊外に倉庫としての建物を新しく建てるのではなく、空きオフィスや空きガレージ、空き店舗など、都市中心部にありながら十分に活用されていないスペースを見つけ、そこをセルフストレージ設備にしています。同社は家主と直接取引し、空きスペースに大部分が自動化されたストレージ・インフラストラクチャーを設置し、収益を分配しています。家主にとってセルフストレージは市場価値の高い魅力的な設備です。なぜなら、窓のない地下室や中途半端な大きさのスペースも、有効活用できるからです。
Stufは、商業不動産業界で長年の経験を持つキャサリン・ロー(Katharine Lau)氏により創設されました。同社を設立する直前まで、ロー氏はコワーキング分野のスタートアップIndustrious(*外部英語サイトへ移動します)で不動産事業をリードし、オフィスの改装や、ホテルの客室をコワーキングスペースに転用するなど、型にとらわれない事業に注力してきました。同氏はこの経験を通じて、建物内には多くのスペースが無駄に放置されていることに気づきました。「たくさんの建物を見て回る中、いつも気になっていたのは、十分活用されていないスペースでした。地下室やガレージ、家の裏の保管スペース、使いづらい形のクローゼットなど、眠っているスペースがあまりにも多いことがわかり、正直うんざりするようになりました」と同氏は振り返ります。
ロー氏が行った独自の調査では、使用されてないオフィスビル、小売店舗、および集合住宅内の空きスペースは、全米規模で 約1億平方フィート(約930万平方メートル)にも上ると推定しています。「開発業者や所有者は建物全体を購入するものの、その多くが空きスペースになってしまうのが現状です」
パンデミックにより、事態はますます悪化しています。不動産サービス企業のAvison Young によると、北米のオフィスの平均入居率は、パンデミック前よりも70%減少しています。
その一方で、ストレージスペースの需要が増加しており、その背景には、パンデミックによる家の整理整頓や引っ越し、廃業などがあると言われています。セルフストレージのビジネスは、2020年から2025年の間に8%増の成長(*外部英語サイトへ移動します)が見込まれています。ストレージの毎月のレンタル料金は、1年前に比べて9%から10%に上昇(*外部英語サイトへ移動します)。世界全体で見ると、2019年には780億米ドルのビジネスでしたが、2026年には1,230億米ドル(*外部英語サイトへ移動します)に拡大すると予想されています。
Stufの事業は、ある業種の問題を別の業種の解決策へと転換しようというものです。同社は2020年12月に180万米ドルの創業資金(*外部英語サイトへ移動します)を調達し、Public Storageのような従来の大手ストレージ企業や、ストレージ版AirbnbのようなP2PプラットフォームのNeighborなど、競合他社がひしめく市場に参入しました。Stufの強みは、利用されていない都市部の不動産に特化していることで、現在ロサンゼルス、サンフランシスコ、オークランド、ニューヨークの9都市を拠点に運営しています。2021年の後半には、シカゴ、ダラス、ワシントンD.C.にも拠点を開く予定です。立ち上げ初期に借り受けていたスペースは1,500平方フィート(約139平方メートル)程度でしたが、今では8,000~10,000平方フィート(約743~930平方メートル)以上の広いスペースを引き受けるようになっています。
そのうちの1つは、ブルックリンにあるレストランだったスペースで、この数年にわたり飲食店が相次いで閉業してきたエリアです。Stufは約3週間かけて、明るく照らされたスチール製のストレージが並ぶレンタルスペースに改装しました。外装は、ほとんど窓のないレンガ造りで、正面の壁はカラフルに塗り替えられました。ロー氏によると、オープンしてから5カ月で、ストレージスペースの稼働率は90%に達しています。
Stufは、パンデミックの影響で増加したオフィスの空きスペースや、需要が変化して用途を見つけるのに苦労しているビルの空きスペースなどにも、同様の取り組みを広げていく計画があると語ります。
「20〜30年前、オフィスビルには専門の職員が常駐するメールルームや文書収納庫が用意されていました。しかし今では、すべてがクラウド上にあるため、そのようなスペースの多くが使用されていません」とロー氏は説明します。
需要がなくなり、そのまま放置されてしまっている空きスペースを前に、新たな収益源を見つけたい多くの家主は、以前より現実を受け入れ始めているとロー氏は話します。
今のところStufは、廃業した大規模小売店を転用するように、このコンセプトの規模を拡大化する計画は立てていません。Stufが注目しているスペースは、目抜き通りの店舗や商業ビルではありません。「私たちは新たな小売ユーザーになることを望んでいるわけではありません。私たちが目指しているのは、通常は気づかれにくい、あるいは活用されていないスペースを収益化して、その用途を転換することなのです」とロー氏は言います。
この記事は、Fast CompanyのNate Bergが執筆し(初出日:2021年10月12日)、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。