株式会社和える

代表取締役

矢島里佳

 

 

大切な仲間と共有する、豊かな「食」の営み

凛とした瞳は、日本の未来を見据える。幼い頃から魅了された和の世界。

 

伝統文化・産業を後世につなぐべく、赤ちゃん、子どもたちに日本の伝統の魅力を伝えるブランド“「0から6歳の伝統ブランドaeru”や地域の伝統を五感で体感できる“aeru room”のプロデュースなどを手がけているのは、株式会社和える代表取締役の矢島里佳氏。

 

矢島氏が、伝統文化に光を見いだしたきっかけとは。そして、大切な人と語らう「プラチナモーメント」とは。

 

 

生まれたばかりの赤ちゃんに「日本を贈る」

暖簾の向こうから、コトコトと糸繰りの音が聞こえる。畳の匂いと、ひんやりとした土間。記憶の糸を手繰り寄せるようにノスタルジーを誘う。築100年を超える町家の一画にあるaeruの京都直営店「aeru gojo」には、全国各地で暮らす伝統産業の職人たちが手がけた日用品の数々が並ぶ。特殊な縁の形状をした「こぼしにくい器」や、お食い初めの器セット、本藍染の産着やタオル……いずれも、生まれたばかりの赤ちゃんや小さな子どもの頃から使い、成長とともに馴染んでいくようなデザインコンセプトで作られている。

 

「いつからか、伝統文化と暮らしとが切り離され、日本に暮らす私たちが、日本を知る機会が少なくなってきていました。そこで、生まれたばかりの赤ちゃんが、暮らしの中で日本と“出逢う”循環をつくれたら、暮らしがより豊かになるのではと考えたのです」。注目したのは、出産祝いやお食い初めなど、子どもの誕生を祝う際に贈られるギフトだった。タオルや産着、スタイ(前掛け)など様々な日用品がギフトとして贈られているが、そこに「伝統産業品」の市場はほとんどなかった。

 

伝統産業品としてつくられるものの多くは、当然「小さな子どもが使う」ことは想定されていない。様々な経験を経て「ものの見方がわかる」大人こそが、価値ある逸品を使うにふさわしいとみなされている。だが、矢島氏はそこに本質的な問いを投げかける。

 

「幼い頃から良いものに触れれば、その心地良さを肌で感じることができます。また、漆器や陶器などを乱暴に扱えば壊れてしまうことを知ることで、ものを大切にする心が養われるはず。だからこそ、生まれたばかりの子どもに“ものを贈る”という行為を、“日本を贈る”ことに転換できれば、より多くの人に日本を伝えることにつながるのではないかと考えたのです」

 

一膳の塗り箸で知った伝統文化の豊かさ

東京で生まれ千葉の郊外で育った矢島氏は、都会で物質的な豊かさを享受し、快適な暮らしをしながらも、ずっと「ふるさと」に憧れていたという。日本に興味を持ち、部活動では茶道や華道を習い、伝統産業品を実際に使う経験を通して、様々な地域で暮らす人々が受け継いできた技術、土着の文化や自然環境に根ざした伝統産業に興味を持つようになった。

 

大学へ入学した矢島氏はジャーナリストを志し、そのテーマを「伝統の継承」に定める。そして全国でその技術継承に取り組む20代から40代の若手職人を訪ね歩き、雑誌など各メディアで連載するようになる。矢島氏の原体験にあるのは、取材したとある漆職人からもらった一膳の塗り箸だ。「普段通りの食卓で、実際にその漆のお箸でご飯をいただいてみると、一層美味しく感じられました。本当にいいものを使うことで、これほど感じ方が変わるのかと驚いたのです。日常の暮らしが、伝統の一品を取り入れることでより豊かになる。その体感を、より多くの人へ伝えたいと思いました」。

 

代々受け継がれてきた技術を真摯に守り発展させ、求道者のようにものづくりに取り組む職人たちの姿に胸を打たれ、見いだしたのは、「先人の智慧を私たちの暮らしの中で活かし、次世代につなぐこと」という使命だった。

 

「赤ちゃん・子どものときからこの体感をすることができたら……と思い、赤ちゃん子どものときから使える “もの”から生みだそうと考えたのです。言葉だけが伝える手段ではない、ものを通して伝えるというジャーナリズムに挑戦しよう、と。しかし、当時はそれを叶えられる企業はありませんでした。ないのであれば、自分で新たな仕事を生みだそうと思い、日本の伝統を次世代につなぐジャーナリズムを実現させるべく、『和える』を創業したのです」

 

大切な人たちと囲む豊かな食の時間

矢島氏は自らの会社を“和えるくん”という子どもに例える。「大学の講義で『法人は人格を有する』と習ったのですが、そのときに、『会社が人格を有するということは、創業者はお父さん、お母さんで、会社は子どもなのか』と考えました。ですから私自身、起業したときに感じたのは、『和えるくんのお母さんになった』という感覚でした。共に和えるくんを育む社員たちは、和えるくんの“お兄さん”や“お姉さん”です。この子とともに生き、次世代へつなぐためにはどうすればいいだろう、と考えることで、赤の他人だけれども、まるで家族のように、それぞれの個性を尊重しながら働くことができるのです」

 

全国各地でaeruのものづくりに取り組む職人たちは、親戚のおじさん、おばさん、お兄さん、お姉さんたちだという。「私たちのものづくりは、『どんなものをつくろうか?』ではなく、『今日生まれた赤ちゃんに、どんなことを伝えたいか?』から始まります。和えるに関わってくれる家族、親戚のような皆さんと、次世代へ日本を伝える同志として、ともに歩んでいきたいのです」

 

全国を飛び回る矢島氏にとって、社員たちや職人たち……家族のように大切な“同志”と食卓を囲む時間は、何より生きる喜びを実感する瞬間だという。大切な人たちと、その土地で育まれた食を楽しみながら、その人が生まれ育ってきた土地を知り、人生を知る。それが、明日への活力を生み出す“プラチナモーメント”だ。

 

「食はその土地の風土や文化をダイレクトに反映します。その豊かさをかみしめながら、その人やその人の大切な人と対話し、時間を共有することで、より深くお互いを理解することができるのです。大切な時間だからこそ、お店選びにはプラチナ・カードのセレクトが参考になりますね」

 

そして、テクノロジーが進化したいまだからこそ大切なのは、何を感じ、何を選び取るのか、暮らしの中で見いだす哲学だという。「目まぐるしく動くいまの世の中は、より“人間らしい”あり方が大切だと思うのです。人の営みには、食べる、働く、眠るなど様々な営みが介在します。人生の大切な時間のなかで、私たちは生きることと働くことを一体化させる…つまり“和える”ことで、より豊かな生き方を体現していきたい。そのなかで得られる喜びや幸せが何より大切だと思うのです」

 

矢島里佳(やじま・りか)

株式会社和える 代表取締役

 

1988年7月24日東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、 “0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。オンライン直営店から始まり、2014年、東京直営店「aeru meguro」、2015年京都直営店「aeru gojo」をオープン。「ガイアの夜明け」(テレビ東京)にて、特集される。第4回 日本政策投資銀行(DBJ)「女性新ビジネスプランコンペティション」女性起業大賞受賞。第2回 APEC「APEC BEST AWARD」APEC best award大賞、Best social impact賞のダブル受賞。京都市文化芸術産業観光表彰「きらめき大賞」受賞。著書『やりがいから考える 自分らしい働き方』(キノブックス)その他4冊あり。