American ExpressAmerican ExpressAmerican ExpressAmerican ExpressAmerican Express

ビジネスの羅針盤/第4回

 

旗を掲げ、今日も「ビジネス」という名の

フィールドを駆け巡る(後編)

 

鈴木 啓太(すずき・けいた)

 

AuB株式会社 代表取締役。1981年、静岡県出身。2000年、高校卒業と同時にサッカーのJリーグ・浦和レッドダイヤモンズ(レッズ)入団。引退まで16年にわたりレッズ一筋で活躍する。2006・2007年Jリーグベストイレブンに選出、2007年日本年間最優秀選手賞を受賞したほか、サッカー日本代表(2006~2008年)にも選ばれ、国際Aマッチに通算28試合出場した経験を持つ。2015年の引退を機に、腸内細菌に関する研究開発を行うAuB株式会社を設立し、代表取締役に就任。

 

 

 

■ 一緒に戦うチームメイトを探す

■ キャッシュアウト寸前、頭の中を整理しに山へ

■「今日もピッチに立ちたい」と社員が思える環境を

AuB株式会社は2015年に創業し、第一弾となるサプリメント「AuB BASE」を発売するまでに4年かかった。その間、資金で苦労することもありました。しかし先輩経営者の言葉に支えられ、ピンチを乗り越えることができたと言います。

 

一緒に戦うチームメイトを探す

――AuBの代表取締役として普段、どのような仕事をしているのですか。

 

まずは人を集めることですね。現在、社員は5人ですが、夏頃までに数人増やし、その後も私の掲げる「旗」に共感してくれる人を仲間に加えていければと考えています。それ以外に、やはりファイナンスの部分には代表取締役として大きな責任がありますし、現段階では営業も重要な業務です。アスリートとの打ち合わせもあるので、とにかく人と会う仕事が多いですね。

 

今、特に力を入れているのは、人材の獲得です。2019年9月に第三者割当増資で約3億円の資金調達を実施したので、次に向けた組織づくりを進めていかなければなりません。具体的にはマーケティング部門と、法務・財務を含めた管理業務を担う人材も増やしたいです。4年間続けてきた研究の成果が製品として出た現段階で、このアウトプットをどのように世の中に伝えていくかが課題だと考えています。AuBの製品はおそらくアスリート向けだと考えている人が多いでしょうが、アスリートとひと口に言ってもトップアスリートだけではありません。例えば市民ランナーもそうですし、スポーツをしていない一般の人にもぜひ使っていただきたいというのが私たちの思いです。

 

私は、すべての人たちがアスリートだと考えています。トップアスリートはそれこそ0.1秒をいかに短縮するか、極限を追求してパフォーマンス向上を目指す人たちですが、一般のビジネスパーソンも、あるいは学生や主婦も、誰だって日常生活でパフォーマンスを出したい、上げたいと考えているはずです。仕事で良い成果を出すためにも、日頃からコンディショニングを意識しなければなりません。ですから、私たちがアスリートの研究結果をもとにアスリートのパフォーマンスを向上させていくのは当然のことながら、今後リリースする製品も含め、それを一般の人たちにどう活用してもらうか、意義を伝える部分、つまりマーケティングの強化が非常に重要だと考えています。

 

――人材を選ぶ際に最も重視する点を教えてください。

 

思いが共通していることはもちろん大切です。「AuB BASE」をリリースしたとはいってもまだまだ駆け出しのベンチャー企業ですから、仮に優秀な人材が来てくれるとなったときにも、待遇面などハードルとなる部分はどうしてもあるでしょう。そのとき、私たちと思いが共通し、AuBの事業が面白い、AuBの事業で世界を変えたいと考え、一緒に戦うチームメイトになれる人材であるかどうかが、最も重視する部分ですね。あとはもちろん、この人と一緒に仕事をしたいと私が思うかどうか。これはあくまで感覚なものですが、大切な要素だと思います。

 

キャッシュアウト寸前、頭の中を整理しに山へ

――2019年春には資金枯渇の危機に直面し、ファイナンスでも苦労されました

 

あれは大変でしたね。私たちのビジネスモデルは研究開発型なので、どうしてもバーンレートが高く、資金がショートする前に調達していかなければなりません。リターンを重視する投資家と私たちの理念がうまく合致せず、資金を引き揚げられたり、予定していた調達が直前で頓挫したこともあってキャッシュアウト寸前の状況に至り、寝られない日々もありました。この時期は、とにかく悩んでいました。一度頭をクリアにし、少し落ち着いて考えてみようと、一人で山に行ったこともあります。そこで自問自答した結果、投資家の立場に寄り添う道をとらず、私たちの理念に立ち返ることができました。

 

その間にも研究が進み、加えてファイナンスもある程度うまくいったので、今はひとまずホッとしているところです。とはいえベンチャー企業はどこでも、同じような苦労をしているのだろうと思います。

 

 

AuBでは腸内フローラ検査「BENTRE」も行っている。検査結果を基に食生活についてアドバイスするなど、個人ごとにパーソナライズされたサービスを提供している。トップアスリートの検体から得られた知見を、一般の人々の生活に生かそうとする試みだ。

「今日もピッチに立ちたい」と社員が思える環境を

――ビジネスで力になってくれた人物や、支えとなった言葉はありますか。

 

年上のある経営者から言われた「悩んでいる暇があったら行動しろ」という言葉で目が覚めました。その方は上場企業の経営者で成功した人物ですが、「ビジネスで成功している人は、悩んでいる暇がないくらい、とにかく行動している」と言うのです。全く悩まないと成長がありませんから、悩むこと自体は悪くないと私は思いますが、そのレベルを乗り越えるには、とにかく行動しなければならないということに、その言葉で改めて気付かされました。

 

――尊敬している、あるいは目指したいタイプの経営者はいますか。

 

経営者ではないのですが、北海道コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督が、チームマネジメントという観点で好きなタイプです。ペトロヴィッチ監督は責任の所在をハッキリさせる方で、選手としての責任は毎日サッカーを楽しんでプレーすることだと言います。では試合の勝ち負けの責任は誰にあるのかといえば、それは監督の責任だと。つまり、試合に負けてもその責任は選手にはないと断言していました。

 

監督を経営者、選手を従業員と仮定すると、企業にも適用できる考え方だと思います。戦略を立てるのは経営者の責任。そして従業員には、仕事がだるいな、つまらないなではなく、今日も仕事が楽しみだという思いを持って会社にきてほしい。その気持ちの違いだけで、ビジネスに大きな差が出るはずです。

 

――今後、目指すところを教えてください。

 

まず、日本が今後迎えるスポーツの一大イベントを機に、スポーツのレガシーをどのようにして次世代に残していくのか、そしてどのようにスポーツ産業を発展させていくのかが、日本の大きな課題の一つだと考えています。

 

スポーツを超えてヘルスケアという大きな領域でいうと、高齢化社会や保険、年金、医療費などの問題が山積する中で、課題先進国の日本だからこそできることがたくさんあるはずです。アスリートの便を調べて得られる腸内データを活用していけば、日本全体を健康にすることも可能だと思います。さらには、これから日本と同じような道をたどるであろう諸外国に対して、日本で成功した仕組みを伝えられるのではないか。アスリートの知見が、世界の人々の健康につながっていくような事業を展開したいですね。

 

もちろんそれは、AuBだけでできることではありません。他の分野の企業や研究機関、組織などと連携し、一緒になって健康増進につながるプラットフォームなり製品なりサービスなりを生み出していくのが、私の夢です。

(終)