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ビジネスの羅針盤/第6回

 

選手ではない立場で日本のバスケット
ボール界を導きたい(前編)

 

折茂 武彦(おりも・たけひこ)

 

株式会社レバンガ北海道代表取締役社長
1970年埼玉県出身。中学校でバスケットボールを始め、日本大学4年次にチームをインカレ優勝に導いた。1993年トヨタ自動車に入社し企業チームで活躍。正確な3ポイントシュートを武器とした得点能力が高く評価され、男子バスケットボール全日本代表として世界選手権など様々な国際大会も経験した。2007年新設のレラカムイ北海道に移籍しプロ選手に。2011年運営会社が経営難により当時のリーグから除名処分を受け、チーム消滅の危機に陥ったことで、一般社団法人としてレバンガ北海道を設立し、選手兼理事長に就任。後に会社組織化に伴い代表取締役社長となった。2020年49歳で現役選手を引退し経営者一本に転身。これまで日本人選手(帰化選手を除く)として初の通算10000得点達成など、トップ選手として華々しい実績を誇る。

 

 

 

■ 27年間の現役生活は“後悔ばかり”
■ 限られた時間に集中して質の高い練習を続けた
■ 体・心・時間のマネジメントの重要性
■ 経営者としての責任を痛感しながらポジティブに取り組む

バスケットボールの日本代表選手として、国内外の大会で活躍する傍ら、レバンガ北海道の代表として選手と経営者の二足のわらじを履いた折茂武彦さん。2020年に惜しまれながら現役を退き、経営者に専念することとなりました。激動の2020年を終え、今どのような経営ビジョンを描いているのでしょうか。

 

27年間の現役生活は“後悔ばかり”

――2019-20シーズンで27年に及ぶ現役生活から引退されました。まずは27年間を振り返って、いかがでしたか?

 

27年の現役生活はあっという間だったと感じています。とにかく後悔ばかりで時間が過ぎていきました。「やり切った」という思いも、はればれとした感覚も特にありません。よくアスリートが引退会見で「後悔はない」といったコメントをしていますが、僕は正直後悔ばかりなので、「みんな本当かな?」なんて思っています(笑)。

 

引退の決断自体は即決でした。Bリーグのシーズン(2019-20シーズンは2019年10月開幕)が始まる1カ月ほど前、来季や数年後ではなく今季がそのタイミングだと思い、心を決めました。理由は、日本のバスケットボール界で僕は確かに一時代を築いてきたという自負はありますが、いま自分がプロ選手としてチームの戦力になっているのかと疑問に感じたことが一つ。このまま続けても自分自身が納得できないし、お金を払って見にきてくれるファンも納得できないでしょうから、引き際が大切だと考えました。

 

また、NBAで活躍する八村塁くんをはじめ、どんどん若い選手が出てくる中で、次の世代に引き継ぐタイミングだと感じたことも理由です。選手としてプレーを続けることではなく、プレー以外の部分で日本のバスケットボール界を良い方向に変えていくことがこれからの自分の仕事ではないか、そんな風に思いました。

 

僕はプレーイングマネージャーとしては力不足で、レバンガ北海道を日本一に導けませんでしたが、チームも僕がいなくなることでガラッと変わるでしょうし、常勝チームを築くには自分が今このタイミングで退くのがベストだと考えました。

限られた時間に集中して質の高い練習を続けた

――49歳(シーズン終了後に50歳)まで現役を続けてこられた秘訣は何でしょうか?

 

まずは何といってもケガをしなかったことですね。僕自身、運動神経は一般の方と大きな違いはないと思っており、アスリートとしての才能や能力が特に優れていたわけではありません。バスケットボールも、僕より才能があり、うまい選手はたくさんいます。

基本的なパフォーマンスは、年齢を重ねていくとどうしても落ちていきます。若い選手と比べるとそこはどうしても劣ってしまうのですが、僕はもともと天才系ではないので、若いときから自分がやるべきことは何かをとにかく考え、工夫し、それを実践してきました。出会いなど様々な運に恵まれたこともあると思いますが、能力も才能もないことを自覚していたからこそ、逆にここまでできたのかなという思いがあります。

 

チームの練習以外の時間にトレーニングをすることはほとんどなく、与えられた時間の中で、いかに全力を尽くして質の高い練習をするかを心がけていました。そのために、「イメージ」「意識」「集中」の3つを大切にしました。まずは、日頃から試合のイメージを持って練習する。その際、どういう部分に注視してこの練習に取り組まなければならないのかを強く意識して取り組んできました。そして、一日に与えられた数時間の練習のときはとにかく集中することを心がけました。

未来に向けて、カオスを引き起こせ

 

体・心・時間のマネジメントの重要性

――そのスタイルによって日本のバスケットボール界でトップの実績を残してきたわけですが、結果を出すために重要なことは何ですか?

 

バスケットボール選手だけではなく、どのような職業にも言えることですが、僕は「体」「心」「時間」の3つのマネジメントが大事だと考え、心がけてきました。健康でなければアスリートもビジネスパーソンも結果を残せませんから、体のマネジメントが重要であることは言うまでもありません。特別なことをするというよりは、休養や食事に意識を配るのは当たり前のことです。僕は大学を卒業して引退するまで、体型も体重もほぼ変わりませんでした。

 

心のマネジメントについては、バスケの試合中はもちろん、ビジネスでもミスは必ず起こります。僕はシューティングガードという、シュートを打つ役割のポジションでしたが、どれだけ練習してどれだけ実績を積もうが、シュートが100%入ることなどありえません。ですので、シュートを外しても「失敗に囚われない」ことがとても大事です。ミスをするとどうしても気になってしまうものですが、気になるということは囚われているということ。そうすると再びシュートを打ち続ける勇気が持てなくなるので、僕は失敗しても気にしないと心に決めていました。

 

時間は、世界中の誰に対しても唯一平等に与えられる資産だと思っています。僕は、常に一分一秒、自分に残された時間が削られていると考えています。この時間をどう使っていくかも自分次第ですから、成功に近づくためには時間のマネジメントが非常に重要です。具体的には、まず自分の中で一日の計画をしっかり立てます。他の2つのマネジメントともつながってきますが、健康であるためにはきちんと食事と睡眠を取らなければいけませんし、心のためには何もしない時間や自分を見つめ直す時間も必要なので、そういった時間も含めて日頃の生活のパターンを確立していました。「忙しい」と一言で済ませるのは簡単ですが、組み立て方次第で必要な時間は必ず確保できるものです。

 

経営者としての責任を痛感しながらポジティブに取り組む

――2011年からはプレーイングマネージャーとして、選手を続けながらレバンガ北海道の経営者も兼任されました。

 

僕自身、経営の経験などまったくありませんでしたし、周囲からは選手と経営の二足のわらじは不可能だと言われました。ただ、練習でも試合でもとにかくコートに入ったらバスケだけに集中する、反対にコートから出たらバスケのことは一切考えないというように、イメージと意識を完全に切り替えました。それぞれに集中できれば問題はない、できるはずだと考えていました。

 

――引退したいま、選手に戻りたくなる瞬間はありますか?

選手に戻りたいとはまったく思わないですね(苦笑)。僕は現役選手として27年間、学生時代も入れると人生の7割以上バスケットボールをしてきたわけですが、バスケが楽しいという感覚は持っていませんでした。そもそも勝負の世界ですから、勝たなければいけない。勝つことに向けた情熱と、そこに対する覚悟は持っていましたが、勝ちにいくことを考えると楽しむ余裕が僕にはありませんでした。もちろん現役選手を引退したいまなら、何も背負っていないので、バスケを楽しいと感じるかもしれませんね。

 

これまでは二足のわらじでしたから、バスケットボール選手として過ごす以外の時間のほとんどを会社の代表であることに費やしてきました。いまは選手としての現役は終え、自クラブの経営はもちろんですが、これからのバスケットボール界のために自分は何ができるのかということに集中しています。経営についてもバスケットボールと同様、楽しいという感覚ではなく、責任を全うしなければいけないという思いばかりです。

 

レバンガ北海道というクラブにとっても、いまは非常に難しい状況です。先が見えないものですから、当然、社員やクラブに関わる人たちも不安に思っているはず。その不安を解消するのも僕の責任だと感じているので、なおさら楽しむ余裕はありません。

 

現状、コロナ禍でどうしてもネガティブな気持ちになってしまう人が多いことでしょう。しかし、ネガティブ発想では物事は解決しません。そこに囚われず、ポジティブに考えていかないと、良い結果は出せない。僕はその思いで取り組んでいます。

 

 

後編に続く

未来に向けて、カオスを引き起こせ