American ExpressAmerican ExpressAmerican ExpressAmerican ExpressAmerican Express

ビジネスの羅針盤/第6回

 

道民の思いが経営の原動力に(後編)

 

折茂 武彦(おりも・たけひこ)

 

株式会社レバンガ北海道代表取締役社長
1970年埼玉県出身。中学校でバスケットボールを始め、日本大学4年次にチームをインカレ優勝に導いた。1993年トヨタ自動車に入社し企業チームで活躍。正確な3ポイントシュートを武器とした得点能力が高く評価され、男子バスケットボール全日本代表として世界選手権など様々な国際大会も経験した。2007年新設のレラカムイ北海道に移籍しプロ選手に。2011年運営会社が経営難により当時のリーグから除名処分を受け、チーム消滅の危機に陥ったことで、一般社団法人としてレバンガ北海道を設立し、選手兼理事長に就任。後に会社組織化に伴い代表取締役社長となった。2020年49歳で現役選手を引退し経営者一本に転身。これまで日本人選手(帰化選手を除く)として初の通算10000得点達成など、トップ選手として華々しい実績を誇る。

 

 

 

■ コロナで消えたチケット収入と消えなかった広告収入
■ 観客動員半減以下の中、来季に備えて借り入れも
■ 道民の思いの集まりであるレバンガを守り抜くために
■ 成功の反対は失敗ではなく、言い訳すること

2020年で現役を退き、現在はレバンガ北海道の経営に専念する折茂武彦さん。新型コロナウイルスはクラブ経営に暗い影を落としていますが、そんな中でも地元の声援と支援が原動力になっているようです。

 

コロナで消えたチケット収入と消えなかった広告収入

――コロナの影響で、Bリーグの2019-20シーズン(2019年10月~2020年5月)は3月に中断、結局そのまま中止となりました。経営面ではどのような影響がありましたか?

 

北海道でのホームゲームも30試合中9試合が中止になりました。クラブの収益の柱は試合の興行収入(チケット収入)とスポンサー収入(広告料)で、この2つが約7割を占めています。ですから9試合も中止となったことはかなりの打撃となりました。2019年6月期決算での総売上は約7億9000万円、興行収入は約2億2000万円でしたが、1億円近くがホームゲーム中止で消えたわけです。それも、僕の引退試合が計画され、売れ行きが良い中での中止ですので、なおさらダメージは大きかったですね。

 

その上、シーズンが途中で終わっているわけですから、本来であればスポンサー契約上、権益未消化に対する措置をとる必要がありました。しかし、どの企業もコロナ禍で経営状況が苦しい中、「コロナは緊急事態」「不可抗力なので仕方ない」と大半の企業が返金を求めることなく、契約を継続してくれました。「苦しい台所事情の中でも一緒に頑張っていこう」という言葉を多くの企業からいただき、新規のスポンサー数も想定以上に増えている状況になっています。

 

レバンガは北海道の企業と地域に支えられているチームです。クラブとしても「北海道から明日の“ガンバレ”を」をスローガンとし、創設当初からずっと地域密着で歩んできました(「レバンガ」は「ガンバレ」を反対から読んだもので、公募で決められた)。今回の件で、レバンガが道民の皆さんに支えられていることを改めて強く実感しました。

 

観客動員半減以下の中、来季に備えて借り入れも

――地元に人気のチームだからこそ、思うように観客を入れられない中、チケット収入は依然厳しい状態にあるのではないでしょうか。

 

確かに非常に厳しいです。現在は観客の入場は収容人員の50%が上限という段階ですし、そもそもバスケットボールは野球やサッカーと違って屋内で行われるので、感染拡大が収まらない状況ではやはり怖いイメージが先立ち、50%にも届かない状況です。チケット収入が半減以下というだけでなく、観客が来なければ会場で購入されるグッズ収入も落ちます。その他、選手によるバスケ教室もいまコロナの第3波による影響で施設が使えないことから、思うように開催できていません。要するに、すべての売上が落ちています。

観客動員については今後どう変わるかまだ読めないところがあり、事業計画も収容人員の100%入れる形、50%で乗り切る形、さらに無観客・中止の3段階で立てています。おそらく現状で100%は難しいでしょうから、50%もしくは無観客・中止が現実的だと想定して対策を考えています。

 

2020年6月の決算はなんとか黒字で着地できました。しかし来年はより厳しい数字になることは間違いないので、その状況に備えて金融機関から借り入れをしています。このお金は、使わずに済めばベストですが、クラブが倒れてしまったら意味がないので、タイミングがきたらためらうことなく使い、シーズンをしっかり乗り切りたいと思っています。

 

経営に携わって10年目、選手・経営者の二足のわらじから経営一本に移るタイミングでのコロナ禍でした。ただ、僕としては10年目で良かったと考えています。これが5、6年前だったら、まだクラブとして債務超過があった段階で、公的金融機関の信頼を得られず、借り入れも難しかったでしょう。

未来に向けて、カオスを引き起こせ

 

道民の思いの集まりであるレバンガを守り抜くために

――そもそも2011年に新たにクラブを立ち上げた直後、ファイナンス面はどのように回していたのでしょうか?

 

経営など学んだこともない現役の選手でもある自分がやるわけですから、至らない点が多く、大きな負債を抱えました。なんとかしようと最初は自分が稼いだお金をすべてつぎ込んでいましたが、そんなものはたかが知れているので、すぐ行き詰まりました。北海道のバスケットボールクラブ=経営難でリーグから除名されたというイメージもつきまとい、新たに立ち上げた全く別のクラブであっても、金融機関から借り入れるのは難しい状況でした。当初から現在までスポンサーとなってくれている企業に僕自身の思いを伝え、かなりの額を借り入れさせていただけたことで、今のレバンガ北海道があります。

 

そうした経験をしてきたので、会社経営に必要なお金を生み出すにはやはり人とのつながり、そして信頼が重要だということを身に染みて実感しています。地元の人たちとのつながりと信頼感がなかったら、このチームは存続していなかったでしょう。逆に言えば、いま存続しているレバンガ北海道は、様々な人たちの思いの集合体であると考えています。

 

――Bリーグはいまオーナーチェンジを行い、大資本による改革が主流になっています。名だたる企業が経営に入ってきているわけですが、この流れをどう見ていますか?

 

資金が潤沢な企業がオーナーとなれば、もちろん経営的に安定し、強いチームをつくれる可能性が上がるので、クラブにとってはプラスに働きます。Bリーグ全体にとっても良い傾向だと思っています。ただ、レバンガ北海道は他のクラブと成り立ちが違います。設立からずっと地域密着で、北海道のたくさんの人々に支えられてきたチームです。

 

もし、その経緯を知らず、経済的なメリットだけで企業に頼ることになれば、北海道の皆さんにいままで通り応援していただけるのかどうか。だから僕は、ずっと地域密着で、地域の人に愛され、支えられるチームをつくり続けるため、その方法は取らないと決めています。選手・社員だけでなく、関わるすべての人がいてこそのレバンガ北海道だ、そんな思いを強く抱いています。

 

成功の反対は失敗ではなく、言い訳すること

――資金面以外の部分で、経営者として心がけていることを教えてください。

 

バスケと経営は、実はそれほど変わらないと思っています。仕事内容はもちろん違いますが、考えること、工夫することや、情熱、信頼の大切さは共通しており、やるべきことの本質は変わりません。

 

僕がクラブ経営を引き継いだのは、最初(前編)にお話ししたような日本のバスケットボール界やレバンガへの思いに加えて、「やらないよりはできないほうがいい」という信念があるからです。チャレンジもしていないのに「できない」とは言いたくない、とりあえずやってみてできないならしょうがない。できなかったら、それから次の手段を講じればいい。そう考えるタイプなんです。

 

――最後に、経営者の皆さんにメッセージをお願いします。

人生は常にチャレンジで、成功と失敗の繰り返しです。ある程度の失敗を経験しなければ成功には近づけないということを、僕はバスケから学びました。現役時代、日本一になったときはもちろんうれしかったし、達成感もありましたが、それは一瞬のこと。でも、負けると次はどうすればいいのかを考えます。負けたからこそ、失敗したからこそ、次のステップに進めるんです。

 

成功の反対は失敗ではなく、「言い訳」だと僕は思っています。成功している人、成功に向かっている人の共通点は、絶対に言い訳をしないということ。だから僕も、どんなに失敗しても、コロナで苦境に立たされても、絶対に言い訳はしませんし、他の人のせいにもしません。いま、こういうタイミングだからこそ、その思いを持って一歩前に踏み出し、チャレンジすることが大切だと考えています。

 

(終)

 

前編はこちら

 

未来に向けて、カオスを引き起こせ