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プロフェッショナルの新・視線/第5回

 

物語の力で世界をプラスに変えていきたい

(後編)

 

佐渡島 庸平(さどしま・ようへい)

 

株式会社コルク代表取締役
1979年生まれ。中学時代を南アフリカ・ヨハネスブルクで過ごし、灘高校を経て東京大学文学部に進学。卒業後、2002年講談社に入社。「週刊モーニング」編集部で『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)など数々のヒット作の編集を手掛ける。2012年講談社を退社し、作家の作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行うエージェント会社「コルク」を設立。エンターテインメントの新たなモデル構築を目指し活動を続けている。

 

 

 

■  オンラインの加速を背景に新たな働き方を設計

■  コロナで生活様式は変わっても、作品は変わらない

■  “好き”がコルクの事業を決める基準

■  「東大は簡単だ」というセリフの真意

コルクの佐渡島庸平代表は、新型コロナウイルスが流行する以前からオンラインを活用した働き方を実践していたと語ります。コロナで変わったことと変わらないこと、そして佐渡島さんが事業を通じて実現したいこととは。

 

オンラインの加速を背景に新たな働き方を設計

――緊急事態宣言をきっかけに、リモートワークを始める企業が増えました。佐渡島さん自身、またコルク社員の皆さんは働き方が変わりましたか。

 

まず僕については、やはり家で仕事をする機会が多くなり、家族と過ごす時間が長くなりましたね。ただ、僕はもともとオンラインでの仕事が多かったので、感覚としてはあまり変わっていません。

 

コルクのほうも、以前からオンライン会議は活用していましたし、そこまで大きな変化はありません。社員30人程度の、大きくはない組織ということもありますが、今回ビジネスの基本はオンラインに集約できることを改めて確認できたので、これまで利用していたオフィスを解約することにしました。近々もっと小さなオフィスを借り、バックオフィス機能だけをそこに入れて、社員は月1回だけみんなで会うなど、新しい働き方を設計していこうと考えています。

 

――オンラインへの集約に伴い、「オフライン」での関わり方も見直していくということですね。

 

はい。今まで社員たちは、なんとなく毎日出社し、何も意識することなく会っていました。そのスタイルを改めて、会うときはしっかりお互いの関係性を深められる会い方をしようということにしたのです。

 

言うまでもなく、直接会って“しっかり雑談”することはとても大切です。ですが、漠然と出社して顔を合わせても、意外と“しっかり雑談”はしていないんです。せっかく出社したのに「今日は一言も話をしなかったね」では意味がないですから、その点も社員同士が意識してコミュニケーションを取っていくように、設計していこうと考えています。

 

総じて、今回のコロナをきっかけにオンラインの働き方が加速したという印象ですね。僕自身は働き方がそれほど変わったというわけではないのですが、なぜ人と会うのかを考え直すきっかけにはなりましたし、社員間のコミュニケーション量が減ったぶんをオンラインの朝会でフォローするなど、コミュニケーションのあり方に関する気づきも得られました。

 

これまでオンラインのやり取りで済ませると失礼になるのではと考えていた社外の方も、この期間にリモートワークを体験し、オンラインでのやり取りもアリだと気づいたでしょうから、その意味でもいいきっかけになると思います。

 

コロナで生活様式は変わっても、作品は変わらない

――コルク所属のクリエイターの皆さんは、この状況にどう対応されていますか。

 

作家の皆さんは、最初の頃は直接会って打ち合わせをしたいと希望する人が多かったですね。しかし社外の方と同じく、オンライン会議を重ねるうちに自然と慣れてきたのか、今はかなりの部分がオンラインでのやり取りに変わっていっています。クリエイターは世間の空気に敏感な人が多いので、世間全体が恐怖心を持っていると感じたら、その恐怖心に呼応して、自分たちも家からあまり出たくないと思うようになるのかもしれません。

 

ただし、仕事の仕方や生活様式は変わったけれど、今回のコロナ禍に大きく影響を受けた作品が上がってきているということは、現状まだありません。ここは難しいところなのですが、コロナ禍はもちろん大きな出来事ですけれど、このことに影響を受けすぎて作品を作ると、世の中が元に近い雰囲気に戻ったとき、逆に訴求力が弱い作品になってしまう可能性があるんです。世間はすぐにテンションが変わってしまいますからね。

 

東日本大震災のときも、発生した3月からしばらくは電気の問題や原発事故のことなど色々あり、社会全体にもう元通りにならないのではないかという空気が満ちていました。しかし夏を過ぎると、少なくとも東京はどんどん日常を取り戻し、街全体から不安が薄れていきましたよね。コロナも、現時点(インタビューを行ったのは2020年6月)ではまだまだ混雑した場所へ行くのに恐怖心のようなものが残っていますし、この重い空気を5年も10年も背負っていかなければという雰囲気も漂っていますが、この先どう変わっていくかはまったく分かりません。

 

“好き”がコルクの事業を決める基準

――佐渡島さんは、事業をするということ、会社を経営するということをどのように考えていますか。

 

お金は天下の回りもの。事業とは、そのお金を回すことだと考えています。事業を立ち上げるときに、お金の回し先を自分で考えて決めることができるのが、経営者の魅力の一つ。例えば、お金の力を使って世の中を良くしていこうと考え、事業を行うことで実際にその動きへ関与できる良さがあります。「世の中が良くなってほしい」という受け身の姿勢ではなく、「世の中を良くしたい」という主体的な姿勢で社会への価値提供に関われるのがいいですね。

 

そして入ってきたお金でまた次の取り組みに投資できますし、一方で社員に渡したお金は社会に還元してもらえます。

 

――コルクで行う事業はどのような基準で決めているのですか。

 

僕はいつも「好きのおすそわけ」と言っています。自分自身がすごく好き、あるいは作家がすごく好きだと思ったものを、その“好き”の魅力が伝わるように発信することで、世間にもいいなと思ってもらう。それがコルクのビジネスだと思っています。

 

「東大は簡単だ」というセリフの真意

 

――最後に、記事を読んでいる中小企業経営者や個人事業主の方に向けて、メッセージをお願いします

 

三田紀房さんの『ドラゴン桜』に、「東大は簡単だ」というセリフが出てきます。世間では東大に入ることは難しいと思われていますが、だからといって「東大は難しい」と考えてしまったら、受験者のレベルが高いとか、合格できる人数が限られているとか、とにかく「難しい」「できない」理由ばかり思い浮かんでしまって、合格するために対策を考えようという気力も湧いてこなくなります。ところが反対に「東大は簡単だ」と考えてしまえば、合格するための一歩目としてどういうことをしてみようかと、チャレンジする気になるんです。

 

今、コロナが大変で、会社が難しい状況にあると考えると、難しい状況を裏打ちするような情報だけがいくらでも入ってきて、動けなくなってしまうでしょう。そうではなく、「こんな状態を打開するのは簡単だ」「会社の規模が小さいからこそ身動きが利く」というように考え、自分の言葉で口に出してみると、今踏み出すべき第一歩のアイデアが自然と生まれ、気持ちも楽になると思います。

 

僕自身も、今は変化のチャンスだと捉えています。すべての出来事には必ず裏表がある。「難しい」があるなら「簡単だ」も同時にあるわけです。それなら「簡単だ」と考えて、行動を起こす。むしろこういうときだからこそ、そんな気持ちで臨んでみてもいいのではないでしょうか。

 

(終)

 

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