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プロフェッショナルの新・視線/第6回

 

コロナは新しい創意工夫を生むチャンス
(後編)

 

久住 昌之(くすみ・まさゆき)

 

マンガ家・ミュージシャン
1958年生まれ。法政大学社会学部卒業。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。1981年、泉晴紀氏と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。実弟の久住卓也氏と組んだマンガユニット「Q.B.B.」では、1999年に『中学生日記』で、第45回文藝春秋漫画賞を受賞している。谷口ジロー氏と組んで描いたマンガ『孤独のグルメ』は、2012年にテレビドラマ化され、season8まで放映。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。ミュージシャンとしても年間60ステージ以上をこなすなど、マルチに活躍。

 

 

 

■ コンビニのアイスコーヒー用カップでウイスキーをあおる
■ 「こだわり」は自ら世界を狭めている
■ 意外なところから面白いものが見えてくる
■ 活動自粛で生まれた時間で違うことを始めてみる
■ 今こそ人とつながるチャンス

『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)や『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)などの原作者として知られるマンガ家の久住昌之さん。新型コロナウイルスは久住さんの活動にも大きな影響を与えましたが、決してネガティブには捉えていないそうです。どういうことなのでしょうか。

 

コンビニのアイスコーヒー用カップでウイスキーをあおる

――新型コロナウイルスによって、多くの人がライフスタイルの変更を余儀なくされました。久住さんご自身は、どんな変化がありましたか?

 

僕は一人で仕事をしているので、仕事を終えた深夜に仕事場の近所で2、3杯飲んで、自宅へ帰るのが日課だったのですが、コロナ禍で近所の店が閉まってしまって、それができなくなりました。

 

かといって、これまで仕事場では一切飲まなかったので、つまみもないし冷蔵庫も置いていない。日本酒をデスクで飲むのは、どうもおいしくない(笑)。それで最近あまり飲んでいなかったウイスキーを買うようになりました。氷がないからどうしようと考えて、思いついたのがコンビニでアイスコーヒー用の氷入りカップを買うこと(笑)。ちょうどいい量で、また買いに行くのは面倒だから、なくなったらそれでオシマイ、となるのもいい。

 

店員さんと、「そちらのマシンでコーヒーを淹れてください」「いや、これだけでいいんです」「値段、同じですが」「大丈夫です」なんてやりとりをして。

 

「こだわり」は自ら世界を狭めている

――柔軟な発想が、自分流の解決策を生んでいるわけですね。その柔軟な発想はどこからきているのでしょうか?

僕は何かを見るとき「こだわり」が一番の敵だと思っています。こだわりを作った途端、視界が狭くなります。こだわっている部分しか見なくなるから。

 

よく、「『孤独のグルメ』の店はどうやって探すのですか」「面白い店を見つけるコツはなんですか」などと聞かれます。「コツ」もこだわりと同じです。つまり、誰かにコツやこだわりを聞くと、そこしか見なくなるんです。

 

例えば、「暖簾がこういう感じの店がおいしい」とか、「入り口は自動ドアじゃなくて」などといったこだわりやコツを聞くと、自動ドアでも面白い店があるかもしれないのに、切り捨ててしまう。でも人は、コツやこだわりを知りたがる。話が早い気がするから(笑)。

未来に向けて、カオスを引き起こせ

 

意外なところから面白いものが見えてくる

――コツやこだわりを持たないことが、面白いものの発見につながるということですか?

 

何かにこだわらないで面白いものを見つけるためには、肩の力が抜けていないといけません。プロ野球の優れた打者や、テニスプレイヤーを見ていると、投球やサーブを待つとき、体をちょっと動かして力を抜いているのが分かりますよね。ガチガチの体では、広範囲の球に対応できないからです。余計な力が入っていないほうが、その人が持つ本来の実力や柔軟性を発揮できます。

 

店を見るときも同じです。いつどんな個性の店がポンと現れるか分からない。肩の力を抜いて、躍起にならずに街を歩く。そうすると意外な店が目に入ってくる。「戸口の脇に、謎の小さな棚が取り付けてある」なんていうのを見逃さなくなる。実はそこに店主の創意工夫があったりするんです。コツだのこだわりだのを持っていたら、そんなものは目に入らない。

 

手っ取り早く見つけようとしなければ、面白い店は向こうから飛び込んでくるんです。

活動自粛で生まれた時間で違うことを始めてみる

――新型コロナウイルスによる活動自粛期間中、久住さんの活動にはどんな影響がありましたか?

 

ライブや講演や取材で、月に4~5回は地方に行っていましたが、それが全部キャンセルになりました。ずっと家にいたので、少し前に始めた「箸置き」作りにちょっと力を入れてみました。

 

2019年の夏に、佐賀・肥前吉田焼の窯元の方と僕がデザインした箸置きをコラボレーションで作ったんです。これに手描きで絵付けして、ライブ会場で売ったりしたことがあって。それを、時間があったからたくさん作って、通販で売ってみたんです。そうしたら評判が良くて、描いたものからすぐ売れてしまいました。なくなるとまた窯元に作ってもらって、描いては売り、描いては売りで、春から累計200個・200種類くらいは作りましたね。

 

今度は陶器の酒器を作ろうと思って試行錯誤しています。佐賀の窯元と連絡を取り合いながら、大きさ、デザイン、使い勝手などを考えています。初めての試みなので、楽しいです。

 

よく言われることですが、「不自由は工夫のチャンス」です。工夫から新しいものが生まれる。何もかも満たされていたら必要に迫られないので、思いつくこともない。コロナ禍によって様々な不自由に迫られる今は、新たな創作のチャンスだと思います。

 

今こそ人とつながるチャンス

――コロナ禍で経済活動が縮小したことによって、影響を受けている経営者は大勢います。そんな人たちは今、どんなことを考え、何をしたらいいのでしょうか。

 

日々の仕事に追われているときは、ノルマをこなすことで精いっぱいになりがちです。でも、コロナによって営業時間の短縮や往来の自粛などで、空いた時間が生まれます。これは、普段の仕事を少し丁寧にやってみるチャンスではないでしょうか。一つの仕事に、いつもより時間をかけてみたり、違うやり方をトライしてみたり。実験してみて、失敗したっていいじゃないですか。僕は箸置きを作って、描いたことのないものを描いたし、筆の使い方にも慣れた。楽しんでやってきましたが、振り返ればこの半年で自分の引き出しが増えたと感じています。

人とつながるチャンスでもあると思います。「コロナで自粛だから人に会えない」と言いがちですが、コミュニケーションの手段は色々あります。電話でもいいし、Zoomを使ってもいい。ほとんど書く機会がなくなった手紙を出してみるのもいい。普段はお互いに忙しくてそんなことはできないからこそ、今、仕事に直接関係なくても「どうしてる?」と連絡をとってみるいい機会だと思います。

 

一番もったいないのは、外に出られない、仕事がない、と言って、ネットを見ることだけに時間を費やすこと。ネットを見ていると世の中や人の行動を知った気持ちになるけど、その人の時間は止まっています。まずは、身近なことから、生活でも仕事でも、何か頭と体を動かして「工夫」する。自分が動くことから、面白いことが見えてくるし、新しい人とのつながりが生まれると思います。

 

箸置きなんていう、普段の生活に必要ない小物を作ることから、僕はたくさんのものを得ていますよ、今日も(笑)。

 

(終)


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未来に向けて、カオスを引き起こせ