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ビジネス&お金の羅針盤/第1回(前編)

 

過去の成功体験を打ち壊し新規事業を開始、120以上もの
ベーカリーを開業支援

 

  岸本拓也(きしもと・たくや)

ジャパン ベーカリー マーケティング株式会社 代表取締役社長。関西外国語大学卒業後、外資系ホテルの横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ入社。広報PR・ブランディング・レストランカフェ・ホテルベーカリーショップのマーケティング及び企画

業務を担当。ベーカリー開業に伴い退社し、有限会社わらうかどを設立。横浜・大倉山にて「TOTSZEN BAKERʼS KITCHEN(トツゼン・ベーカーズ・キッチン)」をオープン。2013年にジャパンベーカリーマーケティング株式会社を設立し現職。現在進行中の案件も含め120店以上のベーカリーをプロデュースしている。

 

 

 

■ パンを人々のライフスタイルに根付かせたい

 

■ 「良い商品」だけではまだまだ足りない

 

■ ベーカリーは地域活性化に貢献する商売

ベーカリーに勤めたことのない会社員が独立してパン屋を開業。繁盛店にまで育て上げた経験を元に、ベーカリープロデューサーとして活躍しているのがジャパン ベーカリー マーケティング株式会社 代表取締役社長の岸本拓也氏。「製パン未経験者だからこそできるパン作り・店作りがある」という独自の考えを持ち、これまで国内はもとより中国、タイ、ミャンマー、オーストラリアなど海外も含め、120店余りの繁盛店をプロデュースしてきました。「個人が営むベーカリーは、まだまだ“新たな付加価値”を生む余地がある。その魅力を世界に広めたい」と岸本氏は熱く語ります。しかし、その夢を追う途中、事業資金で苦しむ局面もあったとか――。前編ではまず、この事業を始めた経緯、そして、岸本氏が考える「パンを通じた地域貢献」についてお話を伺います。

 

 

パンを人々のライフスタイルに根付かせたい

ジャパン ベーカリー マーケティング株式会社(JBM)はベーカリーを作る事業をしています。ベーカリーを開業しようとする方々に、パン作りの基本を教えるのはもちろん、商圏をリサーチし、それに見合った商品を開発し、技術指導をしています。さらに、お店ごとの最適なオペレーションを考え、お店を地域の人々に広めるお手伝いもしています。私は1998年に新卒でホテルに入社し、ホテルのベーカリーでブランディングとマーケティングに携わりました。それが今の仕事を始めたきっかけです。この仕事を通じて、街のパ

ン屋さんをはじめ、様々な業種のお店を見て回ったんですね。当時、巷に「ショコラティエ」とか「デザイナーズホテル」などが出始めた頃で、新たな付加価値を備えた、様々な面白いお店が出てきました。ところがパンのお店だけは旧態依然のまま。大体2つのパターンのどちらかしか、ありませんでした。商店街でご夫婦で営む昔ながらのパン屋さんか、または、本場フランスで修業をした方が営む「ブーランジェリー」などと呼ばれるタイプのお店か。他の業種に比べて、接客の方法や売り方の工夫がまだまだ足りないと感じました。この時の経験は、「おいしいパンを売るだけでなく、人々のライフスタイルにどのようにパンを根付かせていくか」を考える契機になりました。その思いから2006年、30歳の時に独立し、横浜の大倉山駅前に「TOTSZEN BAKER’S KITCHEN」を開業したのです。店舗はホテルのような内外装を施し、店員はスーツを着て、お客様一人ひとりに「今日のご夕食はどのようなお料理でいらっしゃいますか」と聞きながら、対面販売で、それに合うパンをご提案しました。ホテルのコンシェルジュ・サービスを取り入れたわけです。こうした取り組みが話題を呼び、メディアにも取り上げられ、遠方からもお客様が来てくださるお店に育てることができました。

 

 

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これまで岸本氏は120余りのベーカリーをプロデュースしてきた。写真はその一つ、東京・用賀にある高級食パン専門店「くちどけの朝じゃなきゃ!!」。岸本氏独自のネーミング・センスも光る。

「良い商品」だけではまだまだ足りない

この業界には「おいしいパンさえつくれば売れる」という根強い考えがあります。確かにおいしいパンをつくることは大事なのですが、その考えだけにとらわれるのは良くありません。例えばうちの店では、お客様用に常に30本くらいの傘を用意していて、突然雨が降ってきたときに差し上げたり、夏の暑い日には無料で麦茶をご提供しています。自分はホテルにいたので、このようなサービスが当然に思えるのです。それをよそのオーナーさんにお勧めしても、「おいしいパンさえ提供していればそんな必要はない」と断られてしまいます。

 

 

あるお店を訪問した時の光景を今もよく覚えています。自身がパン職人でもあるオーナーが、若い社員に向かって、「こんなやり方ではいつまで経っても食パンやメロンパンしか焼けないぞ!」と叱っていたのです。もっと焼くのが難しいパンの製法を、教えようとしていたのでしょう。でもお店の売上を見ると、食パン、メロンパン、あんパンなどが上位に並び、焼くのが難しいパンほど売れていない。つまり、難しいパンをつくることと経営は別の話なのです。

 

 

さらに、2000年代に入ってから製パン機が著しく進化し、特に食パンは機械中心の作り方でおいしいものが焼けるようになりました。ベーカリーで修業していない異業種の人々が、自由な発想でベーカリーを開業できる環境が整ったのです。そのような店をプロデュースして、既存のベーカリーとお互い切磋琢磨する関係が築ければ、業界全体の発展に寄与するだろう。そう考えて2013年、JBMを起業しました。

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ベーカリーは地域活性化に貢献する商売

このような仕事をしていると、正直、強い風当たりを感じるときもありますが、この事業をやりたい、やらなければならないという強い気持ちが自分にはあります。なぜなら、「パンは社会性のある食べ物だ」と考えているからです。

 

 

例えば、夜にコース料理を提供するようなレストランの場合、一日の来客数はせいぜい数十人でしょう。しかしベーカリーの場合、小規模のお店でも一日の来客数は200~300人に上ります。非常にたくさんの人々に影響を与え、おいしいパンを通じて、人々にささやかな笑顔を届けることができます。もちろん、ベーカリー開業を通じて雇用を生み、税金を払うことでも地域に貢献できます。地域活性化に結びつく商売なのです。

 

 

JBMではさらにこの考えを推し進め、2018年11月に「山陰プロジェクト」という企画も立ち上げました。これは、日本で最も人口が少ない鳥取県と島根県でベーカリーを4店舗開業するという取り組みです。ブランドと店舗運営を確立するまでを当社がお手伝いし、地元企業に売却するという新たなスキームの事業になります。

 

 

このようにベーカリーの開業支援を通じて地方創生をお手伝いし、日本全国、そして世界を元気にしていきたいと考えています。

後編に続く