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ビジネスの羅針盤/第4回

 

旗を掲げ、今日も「ビジネス」という名の

フィールドを駆け巡る(前編)

 

鈴木 啓太(すずき・けいた)

 

AuB株式会社 代表取締役。1981年、静岡県出身。2000年、高校卒業と同時にサッカーのJリーグ・浦和レッドダイヤモンズ(レッズ)入団。引退まで16年にわたりレッズ一筋で活躍する。2006・2007年Jリーグベストイレブンに選出、2007年日本年間最優秀選手賞を受賞したほか、サッカー日本代表(2006~2008年)にも選ばれ、国際Aマッチに通算28試合出場した経験を持つ。2015年の引退を機に、腸内細菌に関する研究開発を行うAuB株式会社を設立し、代表取締役に就任。

 

 

 

■ トップアスリートの腸から生まれたビジネス

■ 起業とは「旗」を立てること

■ ドリーム・キラーがいるからこそ強くなれる

Jリーグ・浦和レッドダイヤモンズ(レッズ)で16年にわたりプロサッカー選手として活躍し、2006年~2008年にはサッカー日本代表として、数々の国際試合に出場を果たした鈴木啓太氏。子供の頃から腸の働きに注目していた経験を基に起業し、トップアスリートの便の研究を通じて、これまでにない商品を開発し注目を集めています。サッカーのピッチからビジネス界へ――活躍の舞台を移した経緯や、起業した時の思いについて伺います。

 

トップアスリートの腸から生まれたビジネス

――2015年にプロサッカー選手を引退し、セカンドキャリアとしてビジネスの世界に飛び込み、起業されました。まずは引退直前に設立したAuB株式会社の事業内容と、ビジネスを始めるまでの経緯を教えてください。

 

現役時代、体のコンディショニングには常に気をつかっていました。特に、幼少の頃から母が「人間は腸が一番大事」と話していた影響もあり、何か科学的な根拠を調べたわけでもないのですが、腸の健康には注意を払っていたのです。具体的には、食後は必ず温かいお茶を飲む、梅干しを食べるなど食生活ももちろんですが、便を毎回観察することで、自分の体調を確認していました。日本代表の海外遠征で23人中18人が下痢になった際、私には問題が起きなかったのも、そうした“腸活”が効果を発揮していたのでしょう。

 

引退直前、知り合いのトレーナーから「便を調べている研究者がいる」という話をたまたま聞き、腸を重視していた自分の経験が一直線につながりました。すぐにお会いして話を伺うと、それまで漠然と気にしていた腸内細菌という言葉も織り交ぜながら、腸の重要性について説明してくれました。それでアスリートの腸内環境を可視化したらビジネスに生かせるのではないかと考えるようになり、引退前に腸内細菌の解析を行う会社としてAuBを起業しました。

 

――2019年12月、500人以上のアスリートの便を解析した研究結果を基に開発した腸内環境を整えるサプリメント「AuB BASE」を発売されました。どんな特徴があるのでしょうか。

 

研究を4年間続ける中で、アスリートと一般の人の腸内フローラ(腸内細菌の生態系)に違いが見えてきました。アスリートの腸には酪酸菌という短鎖脂肪酸の一種が、一般の人に比べて2倍ほど多く存在している上、腸内細菌の多様性もきわめて高い傾向が見られたのです。この研究成果を基に、酪酸菌と様々な菌をバランスよく配合したのが「AuB BASE」です。特徴としてはやはり、500人以上の1000を超える便検体の解析結果という科学的知見を基に開発した点が挙げられます。最初の頃は、「便をください」とお願いしても怪訝な顔をされ、断られたりしましたが、アスリートのためになるという意義を丁寧に説明したら協力してくれるアスリートも増えました。

 

――AuBは引退の数カ月前に設立されましたが、プロのアスリートからビジネスという異分野にセカンドキャリアで転身することをどう捉えていましたか。

 

引退のはるか以前、20代の初めから、セカンドキャリアについて漠然とですが考えていました。カズさん(Jリーグ・横浜FCの三浦知良選手)のように年齢を重ねても現役を続けられる選手はいますが、自分はそこまではできないだろう、30代前半には引退して、新たなキャリアに進むことになるだろうと。そして引退のタイミングで、先ほどお話ししたアスリートの腸内環境を調べるというアイデアを思いつき、自然とビジネスのほうに進んできた感覚です。確かにそれまでのキャリアとは全く異なる分野ですが、まずはやってみなければ何もわからないという意識でスタートしました。

 

――ちなみにAuBという社名の由来は何ですか。

 

アスリート(A)のバンク(B)で、間の「u」は……。実は「便」を意味するあの言葉なのですが、社名にそれが入るのもどうかと思ったので(笑)。それぞれイニシャルで表し、間の「u」はマイクロバイオーム(微生物叢)の「μ(マイクロ)」ということにしています。

 

 

2019年に発売開始したサプリメント「AuB BASE (オーブベース)」。良好な腸内フローラのベースを作ることを目的とし、27競技500人以上のトップアスリートから得られた1000検体以上の研究データから生まれた。

起業とは「旗」を立てること

――起業に向けて何か実際的な準備はしましたか。

 

特にはありません。とにかく走り始めて、いろいろと手がけていくうちに細かな部分が見えてきたというのが正直な印象です。

 

 

ただ、事業を始める際、最初に私自身がどのような「旗」を立てるかは大切だと考えていました。その旗を見て、これは面白そうだと感じた人が仲間になってくれるわけですから、私がまずすべきことといえば、いかに魅力的な旗を掲げ、振ることができるか、その一点だったと思います。特に研究を行うには専門家の協力が必要で、そうした知識や経験を持つ人に集まってもらうために、どのような世界をつくりたいのか、ビジョンを明白に掲げることが重要でした。その上で、アスリートの便を集めて分析するバンクをつくり、そこから得られた 知見を基にアスリートのパフォーマンスを上げることができれば面白いという話を、アスリート仲間はもちろん、知り合いを通じて研究者や経営者など様々な人と会い、伝えました。

 

アスリートは引退すると、通常は指導の形でスポーツに関わっていきます。それはもちろん重要な仕事ですが、自分がアスリートとして頑張ってきた経験、そこで実感した腸への思いを、指導以外の分野でも役立てられるようになれば、こんなに面白いことはないと私は思いますし、その思いを込めて旗を掲げました。

ドリーム・キラーがいるからこそ強くなれる

――起業した時、周囲の反応はどうでしたか。

 

やはり旗を立てれば興味を持ってくれる人はいて、「一緒にやりたい」という人がどんどんと集まってきました。アスリートのために何かをしたいという人はもちろんのこと、一般の人のヘルスケアに役立てたいという人もいます。

 

私は、アスリートの腸内解析から得られたデータはアスリート以外の人たちの健康増進にも貢献するのではないかと考えています。これはちょっと夢のような話じゃないですか。その思いに共鳴し、社会に役立つソリューションを生み出したいと考える人が集まってくれたのだと思います。

 

サッカー選手を目指している時もそうでしたが、「夢はサッカー選手になること」と言うと、「無理でしょう」という反応が大半でした。ドリーム・キラーというのでしょうか。ただ最近は、逆にそういう声があることのほうが大事なのかなと思っています。私の場合はそう言われると、見返してやりたいという気持ちが湧いてくるんですね。そもそも、周りの声など気にならないほど夢中にならなければ、夢の実現などできません。無理かどうかはやってみないと分からない。まだまだベンチャーとして駆け出しですが、「AuB BASE」が製品化されたことで、夢の実現に向け一歩一歩進んでいる実感はつかんでいます。

 

後編に続く