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ビジネスの羅針盤/第5回

 

新型コロナウイルスで変わった価値観と、

新しいビジネス構想(前編)

 

遠山 正道(とおやま・まさみち)

 

株式会社スマイルズ代表取締役。1962年東京都出身。1985年三菱商事入社。1999年スープ専門店「Soup Stock Tokyo」1号店を出店し、2000年には三菱商事初の社内ベンチャーとして株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長となる。2008年三菱商事退社。ネクタイ専門店「giraffe」、リサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」など多様な事業を展開する。アーティストとしても知られ、個展を開催するほか、「ArtSticker」「The Chain Museum」などアーティストを支援するサービスも手掛ける。

 

 

 

■  従業員給与を100%保証しつつ2ヶ月の休業に踏み切った

■  自分たち自身をアップデートしていくチャンス

■  “外”ではなく“内”からの理由にこだわる

■  会社員時代の個展開催で学んだ自己責任

2020年、新型コロナウイルスの影響によって、世界中のビジネスや働き方の形がガラリと変わりました。ニューノーマルと呼ばれる新しい日常を、私たちはどのように生きていけばいいのでしょうか。「Soup Stock Tokyo」などの創業者であり、アーティストとしても活動する遠山正道氏に、コロナウイルスによって変わったこと、変わらない思い、これからの取り組みについてお聞きしました。

 

従業員給与を100%保証しつつ2ヶ月の休業に踏み切った

――今回の新型コロナウイルスの影響で、ビジネスをめぐる環境も働き方も変わったと思います。スマイルズではどんな変化がありましたか。

 

どちらも大きく変わりましたね。スマイルズでは、緊急事態宣言が発出された4月7日から約2ヶ月間、「Soup Stock Tokyo」をはじめグループのほぼ全店で休業しました。一方で、従業員の給与を100%保証することも最初の段階で決め、実施しました。様々な飲食チェーンの中でも先駆的に休業という手段を取ったわけですが、それはやはりお客様への感染拡大防止とともに、従業員の安全を第一に考えたからです。

 

一方で、リモートでできる仕事については在宅勤務を推進し、4月の「Soup Stock Tokyo」の入社式もオンラインで実施しました。もともと店舗での飲食・小売という業態ですから、在宅勤務にはなじまないところも多く、リモートワークは今回初めて実施したのですが、思っていたよりもスムーズに進みました。むしろリモートワークになったことで、地域的に離れた店舗のスタッフたちと毎日朝礼で集まり、コミュニケーションを深められるというメリットも生まれました。その意味でも大きな変化だったと思います。

 

自分たち自身をアップデートしていくチャンス

――リモートワーク以外で新たな取り組みはありましたか。

 

セレクトリサイクルショップの「PASS THE BATON」は、もともと一点物の思い出の品を扱っているショップですし、採算の面も考えて、これまでオンラインにはそこまで注力してきませんでした。それが今回を機に、オンライン限定イベント「半値(はんね)と本音(ほんね)市」を開催したところ、おかげさまで大好評をいただきました。初日にアクセスが集中してサーバーが落ちてしまったので、日を改めて再開したほどです。

 

――リモートワークやショップのオンラインイベントをやっていく中で、新たに見えてきたビジネスのヒントはありましたか。

 

これまでは、“共感”を集めるビジネスを実現するため、私たちは店舗でお客様と直接コミュニケーションすることを大切にしてきました。ポイントカードも昨年までは店頭で押す本物のスタンプにこだわっていましたし、いわばアナログの良さに価値を見出していたのです。その思い自体は今も変わりませんし、早く元に近い状態に戻ってほしいと願う気持ちはありますが、その一方で、私たち自身をアップデートしていく良い機会だとも感じました。ビジネスについてはまだまだ具体的な方策が浮かんでいるわけではないのですが、前向きに新しいチャレンジをしていこうという感覚にはなっていますね。

 

“外”ではなく“内”からの理由にこだわる

――飲食、リサイクルショップ、ネクタイ販売店など多様な事業を展開していく上で、経営者の立場から心掛けていることは何でしょうか。

 

スマイルズは、一般的な会社とは逆のアプローチをしているところがあります。世の中ではまず事業で稼ぐことを考えてビジネスを進めるのが普通ですが、私たちの場合はまず「自分たちが何をやりたいか」ありきで事業を考えます。もちろんビジネスですから利益を出す必要はあるのですが、利益を出すための知恵や知識は本やネットを調べればいくらでも出てくるもの。だからこそ、まずは「私たち自身が何をやりたいか」にこだわることが大事だと思うのです。

 

むしろ今の時代、理由を自分の中に持っていないことのほうがリスクだと感じています。多くの会社はマーケティングを行った上でどんな事業をやるのかを決めるのでしょう。しかし、マーケティングというのはいわば“外”の理由。マーケティングの結果、「これは儲かるらしい」という読みでスタートした事業は、うまくいけばいいのですが、うまくいかなかったときにどうしていいのか分からなくなりますし、赤字の理由も外に探そうとしてしまいます。結果として、社会や環境、あるいは社内の誰かのせいにしてしまう。そうすると外に対する文句や愚痴ばかりになってしまって、発展性がなくなってしまいます。

 

それに対して、どのようなものであれ自分がやりたいからやったという“内”の理由で動いていたら、事業がうまくいけばもちろんハッピーですし、仮にうまくいかなくても誰かのせいにせず、修正する方向性や手段を自分でジャッジして変更できる。そしていよいよこれはダメだ、撤退だとなったときにも、自分なりにやりきれたわけですから、心に痛みがありません。ですから私は経営者としても、「何をやりたいか」を特に大切にしています。

 

会社員時代の個展開催で学んだ自己責任

――ビジネスをそのように捉えるようになったのは何かきっかけがあったのでしょうか。

 

私は学生の頃から絵を描いていて、前職の会社員時代に個展を開いたこともあります。最初に個展を開いたのは33歳のとき。そこで経験できたことは、初めての意思表示と、初めての自己責任でした。誰から頼まれたわけでもなく、「なぜ?」と聞かれても「やりたいから」以外には合理的な説明などできません。そして結果についても、あくまで自己責任で、誰のせいにもできない。会社のせいにも上司のせいにも、社会のせいにも家族のせいにもできない。答えはすべて自分の内にあるわけです。

 

大変そうに見えるかもしれませんが、実はこれってすごく楽なんです。やりたいことの矢印が自分の心から出ていて、気持ちは前を向いているし、結果が悪くても誰かのせいにしないで済む。よく絵の話に例えるのですが、アーティストが10枚絵を描き、7枚売れて3枚が売れなかったとします。そのとき、売れなかった3枚をアーティストは失敗作と呼ぶのか?……呼ばないですよね。同じような気持ちで10枚描いて、たまたま7枚売れ、3枚は売れていない。それだけのことですから、売れない3枚を恨んだりすることなど決してないわけです。

 

「Soup Stock Tokyo」は、すでに分社化して私は経営に携わっていないのですが、見ていると従業員一人ひとりの矢印が心から出ている感じがします。現場のスタッフも、経理や人事も、みんながみんなこの仕事をやりたいと思い、前向きで取り組んでいる。だから、今はコロナの影響で経営的にはマイナスですが、社内に変な淀みは起きません。

 

これがマーケティングの結果のみに動かされた事業だと、失敗したとき「そら見たことか」と言い出す人がいたり、「上司がダメだからこうなったんだ」という声が上がったりして、いざこざが起きる。もちろん現実的に考えれば、ビジネスには大人の計算も必要でしょう。ですが、やはり最後は矢印が自分の「やりたいこと」から前に出ている状況、今やっている理由を自分自身に戻せる状況があるからこそ、やりがいも持てますし、責任も持てるのだと思います。

 

後編に続く