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ビジネスの羅針盤/第5回

 

新型コロナウイルスで変わった価値観と、

新しいビジネス構想(後編)

 

遠山 正道(とおやま・まさみち)

 

株式会社スマイルズ代表取締役。1962年東京都出身。1985年三菱商事入社。1999年スープ専門店「Soup Stock Tokyo」1号店を出店し、2000年には三菱商事初の社内ベンチャーとして株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長となる。2008年三菱商事退社。ネクタイ専門店「giraffe」、リサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」など多様な事業を展開する。アーティストとしても知られ、個展を開催するほか、「ArtSticker」「The Chain Museum」などアーティストを支援するサービスも手掛ける。

 

 

 

■  コロナで経済観の変化が急加速する

■  単なる対価とは異なるお金の考え方

■  ビジネスには本来、数値化できない価値がある

■  実現したい理想の光を打ち上げ続けたい

「Soup Stock Tokyo」などを展開するスマイルズの遠山正道代表。新型コロナウイルスへの対応や価値観の変化について語った前編に続き、後編ではその中で具体的にどのようなビジネスを展開していくのかについて伺いました。ビジネスの出発点は常に「自分が何をやりたいか」と語る遠山氏は、この混迷の時代に何を始めようとしているのでしょうか。

 

コロナで経済観の変化が急加速する

――今回の新型コロナウイルスによる世の中の変化を受けて、ビジネスに対するビジョンや考え方が変わったところはありますか。

 

コロナによる自粛の期間、個人とアーティストをつなぐサービス「The Chain Museum」とアーティスト支援プラットフォーム「ArtSticker」を通して、自宅でアートを楽しめるオンライン写真展「STAY HOME展」を開催し、ご好評をいただきました。今回のコロナをきっかけに、こうしたオンラインの取り組みだけでなく、様々な変化が加速していく実感を強く持っています。

 

では、何が進むのか。私はコロナ以前から、個人の時代、あるいは“1分の1の経済”という言い方をよくしていました。昭和の時代の分母は圧倒的に大きく、大企業に勤める人の経済的立場は1万分の1だったりしたわけですが、その分母は平成、令和と時代が移るに従って、次第に減ってきました。その変化のスピードが、今回を機に圧倒的に勢いを増すと考えています。

 

その結果、個人の幸せ、豊かさ、喜びといった、昭和の企業戦士たちの間ではどちらかというと軽視されてきた価値観を大切にするようになる。それはビジネスの視点から見てもおもしろい傾向だと思います。

 

単なる対価とは異なるお金の考え方

――そこにまた新たなビジネスの種があると見られているのでしょうか。

 

そうですね。今までのビジネスは、ある人がモノを売り、別の人がそれを買う、つまり交渉が発生する取引でした。売る人はなるべく高く売りたいし、買う人はなるべく安く手に入れたい。常に利害が直接向き合い、しかも関係は取引のたびに清算される。いわば修羅場のような状況になるわけです。

 

一方、例えば「ArtSticker」というプラットフォームは、アプリやWebサイトを通じてアートに出合い、そのアートを作ったアーティストと交流して、さらにお金での支援もできるものです。こういうつながりは、これまでのように「1,000円払ったからこれくらいのモノをもらえる」という対価や見返りの感覚とは明らかに異なりますし、支援という形で金銭のやり取りがあっても一度の支払いで関係が清算されることはありません。支払ったものが、その場で直接受け取れる何かではなく、幸せ、豊かさ、あるいは信頼感など、巡り巡っていつか何らかの形で戻ってくるような感覚です。

 

分かりにくいかもしれませんが、いわば太陽の恵みを受けて植物が育ち、それを食べて動物が成長し……という、自然の世界の成り立ちに近いビジネスです。私はこれを「循環経済」とでも呼びたいと考えています。そこではお金に従来とは異なる価値が乗り、血液のように巡る。これは新しい金融のあり方ともいえるかもしれません。こうした循環経済の価値観のもとで、100万分の1ではなく、1分の1の経済が回っていく、その大きなシステムづくりに関わることができればと考えています。

 

ビジネスには本来、数値化できない価値がある

――その新たな価値観をビジネスとして実現するアイデア、あるいは具体的なプランがあったら教えてください。

 

例えば、オンラインをベースにしたサロンのようなものを想像しています。サロンのメンバーは、何か具体的なものを相対で売ったり買ったりするわけではなく、ある人と一緒にいられるとか、話を聞けるとか、趣味の上でのつながりを楽しめるとか、そういった関係性で成立するものです。その関係性が広がり、“1分の1の経済”が成り立つようなイメージです。

 

ですから、サロンで支払うお金は従来のようにモノを買う対価としてではなく、例えば地域通貨とか、ポイントとか、あるいはある国で暮らす際に払う税金に近い感覚になるでしょうか。それを受け取ったり支払ったりする中で、数値化できない幸せや喜びを感じながら暮らせる、そういう場を作ることができればと思います。

 

――従来のビジネスとは形がかなり違うように想像します。それでも、遠山さんにとってはビジネスなのですか。

 

そこはあえてビジネスと呼びたいですね。利益を得るというよりは価値の再分配に近いものですが、従来の言葉でいうビジネスのフィールド上で作ることができると思っています。飲食業をしていると、お客様からの「ありがとう」や「おいしかった」の一言が何よりうれしい。これは強調したい事実で、数値では決して測れない価値なのですが、それでも明らかに現在のビジネスの上に乗っているものです。

 

アートの値段は原価の積み上げではありません。キャンバスと絵の具のコストが1万円であったとして、利益を加えて3万円で売るという考え方ではなく、買う人によって30万円になったり300万円になったりするわけで、それは数値化できない価値だとしかいえないのです。

 

世の中は、実はそういったものであふれているはずなんです。喜びとか、「ありがとう」の一言とか。そうした数値化できない価値の海の中にいるはずなのに、ビジネスとなると数値化できるものばかりに目を向けがちなのが現状なので、私はそうではない、新たなビジネスのサンクチュアリを作りたいですね。

 

実現したい理想の光を打ち上げ続けたい

――そのビジネスは、やがて規模を広げていく考えですか。

 

これまでの事業もそうですが、私は、広げることだけがいいことだとは考えていません。規模が大きければ幸せも大きい、というわけではありませんから。

 

基本にあるのは、やはり「自分が何をやりたいか」です。実はスマイルズのスタッフには「お客様のために」という考え方があまりありません。なぜなら「お客様のために」は当たり前の大前提であって、その先に「自分が何をやりたいか」を考えているからです。

 

一人ひとりが自分の幸せを自分の価値観で獲得していこうという人たちの集まりだからこそ、スマイルズが展開している“共感を集めるビジネス”が可能になり、さらには私が考える新しいビジネスも実現できるのではと期待を抱いています。

 

――最後に、遠山さんが目指すビジネスパーソンとしてのゴールを教えてください。

 

30代前半の頃は、人生にはピークがあり、頂点を超えるとあとは衰退していくと考えていました。でも今は、そう思っていません。

 

スマイルズの経営が最悪の状態にあった2005年に私が描いた、数字のない事業計画の絵があります。弧の形に描かれた黄色い矢印の上で木が育っていくごとに、人々の生活を良くするために実現したい思いを伝え続け、最後は一羽のニワトリとなり、そして矢印は見ている人を指して終わる。次はあなたがこの矢印の循環を回す番だということを表しています。

 

これからは、1人が複数の肩書や名刺を持つ時代になるでしょう。私でいえばスマイルズの事業があり、アーティストとしての顔があり、先ほどのアイデアのようなものがあって、さらにまた新しい何かがある。光の花びらのようにキラキラした思いを打ち上げ続け、いつの間にか天に吸い込まれていくような、そういう人生を送っていきたいですね。

 

(終)

 

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